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text onepiece 短編
溜まった涙は零れ落ちた4
(サンジ視点)



ズキンズキンと頭が酷く痛む。
起きないと、と思うのにまだ体は動かない。
なんで起きないといけない?…そうだ。早く起き上がらないとあいつが心配しちまう。
……あいつって…誰のことだ?


起き上がったサンジの目にまず写ったのは真っ青な空だった。
あれ?俺何してたんだ?ジジィに任されてた仕込みもうやったっけ?と考え、やたら痛む頭を擦りながら起き上がる。
途端に目に入ってきたのは二足歩行のタヌキだった。
それからこちらを睨むように窺っている…体じゅうから手の生えた緑の髪の男
その横には美しい黒髪のレディ
その更に隣にはガイコツ…ガイコツ!?と…鉄っぽい体とパンツの大男
その後ろにはオレンジの髪のレディが麦わら帽子を被った黒髪の男の頬をこれでもかと引き伸ばしていた。
そしてそのすぐ側にはやたら長い鼻がいた。

「…何だ、この…珍獣達は…」

そう呟いた瞬間、そこにいた奴らは目を見開いた。

「記憶喪失…?」

隣のタヌキがポツリと呟く。
皆が心配そうな顔をする中、緑の髪の男だけは顔を顰めていた。
不機嫌そうなその顔に、何故か“泣くなよ”と言いそうになった。
泣き顔とはあまりにもかけ離れた表情だったというのに。


その後、黒髪のレディを先頭に様々なことを聞かれた。
しかし、サンジの頭の中は緑の髪の男のことで占められていた。
正直…船を降りる降りないというのにはさして興味はなかった。
俺がこいつらと居たということはジジィへの恩返しは何かしらの決着が付いたのだろう。
それがどんなことだったか今のサンジには全く分からないけれど、過去…いや、今は十五歳までの記憶しかねぇから未來か?どっちでもいいが、記憶を失う前の行動にはどうも思わねぇ。
俺が決めたことだ。

多分、記憶を失う前の俺にはこの船の連中は大切な奴らだったのだろう。
けど今の俺には何の感情も出てこない。
船を降りろと言われれば船を降りるし、降りるなと言われれば居続ける。そのぐらいの気持ちだった。
………………緑の髪の男がいなければ。
ずっと不機嫌そうな顔をしていた。
その癖、緑色の瞳はゆらゆらと不安そうに揺れていて、それが目に映るたびに心がざわついた。
船を降りると言ったらあいつは泣くのだろうかと思えば、降りるという選択肢は無いも同然だった。
やたらピリピリとした若い船長に残ると告げれば、緑の髪の男は興味を失ったようにサンジから視線を外した。

それからは大騒ぎだった。
それぞれが名前を告げて、記憶を失う前の出来事を語る。
時系列なんてぐちゃぐちゃで、だけどその話の全てに楽しかったんだろうな、と思った。

ルフィ、ウソップ、チョッパー、ナミ、ロビン、フランキー、ブルック
……それから…ゾロ
ゾロだけは本人から名前を聞かなかった。
ルフィがゾロだと告げ、チョッパーが三刀流の剣士なんだと言い、ウソップがお前らは寄れば触れば喧嘩ばっかりしてたと教えた。
ナミさんがサンジ君が記憶を無くしちゃってどう接すれば良いのか分からないのよ、と一人離れて酒を飲むそいつにフォローともとれる発言をした。


夕食を作ろうとしたらロビンちゃんに止められた。
俺に任せるのは不安かな、と思っていたら違った。
ルフィがやたら食べるから量に気を付けろということ、それからルフィを押さえてはおくがもしキッチンに行ったらつまみ食いをしようとするので気を付けて、と言われた。
あまりにも信頼されてるもんだから

「俺が逃げるために毒とかを仕込んだらどうする?」

…と聞いてしまった。
意地悪かな?とロビンちゃんを見れば、少しだけ考えた後で

「あなたはそんなことをしないわ。料理を武器になんて、できないでしょう。」

…そう告げた。
そりゃそうだ、と思った。
俺は料理を武器にはできねぇな、と。

しかしロビンは何かを思い出したようにあら、と言った。

「でも…ゾロには武器にしていたわね。」

「ゾロってあの緑の…?俺が料理を?」

信じられずに聞くとえぇ、と笑っていた。

「サンジかお弁当を作ってくれたのだけど、ゾロにだけカミソリを仕込んでいたのよ。いえ、あれは仕込んでいたというより盛り付けていたのかしら。ゾロもゾロで意固地になってカミソリを食べちゃったのよ」

ロビンは物騒な話をクスクスと笑いながら、まるで楽しいことのように話す。

「は…?カミソリを…食べる??」

「えぇ、バリバリと」

「……そりゃ…丈夫な胃だな…。」

ぽかーんとしたサンジにロビンはミステリアスな笑みを向けた。

「ねぇ、コックさん。なんであなたはゾロにだけ料理を武器にしたのかしらね?」

そんなの、記憶のないサンジには分からない。
黙っているとロビンは邪魔をしてしまってごめんなさいね。料理、楽しみにしているわ、とキッチンから出ていった。


料理を作っても、皆が美味しいと食べてくれても、俺の頭の中はゾロのことでいっぱいだった。
…いや、正確には“俺が料理を武器にしたゾロ”に。
だから俺はゾロに話しかけることにした。

「ゾロ、だったよな?」

「……………あぁ。」

酒を瓶のまま煽っていたゾロは、話しかけた俺をちらりと見て短い返事を返した。
仲が悪かったと聞いたが、そうは思えなかった。
寧ろゾロは俺のことなど見ていないようだった。
静かに見つめる瞳は俺を通して…これまでの冒険の記憶のあるサンジを見ているようだった。

「俺とお前って仲悪かったんだってな。」

「……あぁ」

「三刀流の剣士ってのは?」

「…そうだ。」

何を話せばいいのか分からなかった。
それなら話さなけりゃいいだけの話なのに、何故かここから離れようとは思わなかった。
ちらりとゾロを盗み見ると、揺らめくタバコをじいっと見つめていた。
すっと通った鼻がすん、と動いた。

「っと、悪ぃ。タバコの煙嫌いなんだろ?」

慌ててタバコをもみ消す。

「…誰から聞いた?」

「そこの鼻の長い…ウソップだ。嫌いじゃねぇのか?よく喧嘩しては嫌がらせでタバコの煙を吹きかけては咽てたって聞いたけど。」

「…好きではなかったな。」

「そっか。」

好きではなかったと言ったゾロは、揉み消したタバコをじっと見ていた。
無表情のその顔を、どうして俺は悲しそうだと思うのか…記憶のない俺には分からなかった。
悲しい顔をさせたくないのに、何が原因なのか分からなくて……

「メシ、ご馳走様でした」

考えているうちにゾロは何処かへ行ってしまった。

「サンジ、ゾロと話せたか?」

ピョン、と飛んできたルフィが屈託のない笑顔で聞く。

「……いや、俺は嫌われてるみてぇだ。」

俺は21歳だと言われたけれど、今の俺には15歳までの記憶しかなくて、どうしてもルフィも年上に思えてしまう。
弱音を思わず吐き出すと、ルフィはにっと力強い笑みを見した。

「ゾロはサンジを嫌ってなかったし今も嫌ってねえよ。ゾロはただ寂しいんだ。ゾロとサンジは一番仲がよかったからな」

「……喧嘩ばっかりだって聞いたぜ?」

「そうだな。でもゾロもサンジも仲がよかったんだ。だから本当はゾロが一番寂しいんだ。でもゾロは子供だからどうすればいいのか分からなくて逃げてる。」

「子供?」

「あぁ。ゾロは戦いでは頼りになるけど、普段は俺よりも子供だ。勿論、今のサンジよりもな」

ぽん、と思いの外大きい手が頭の上に置かれる。

「クク、これ、ガキみてぇ。」

「サンジはかっこつけだからな!こんなときぐらい俺に甘えろ!」

流石は船長…敵わねぇな。

その後はしばらく皆から話を聞いて、チョッパーが寝てしまったのを期にお開きとなった。



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あきゅろす。
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