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text onepiece 短編
溜まった涙は零れ落ちたV
「酒」と言えば「飲みすぎじゃね?」と言いながら酒を渡してくれる。
トレーニングをしていればドリンクを持ってきてくれる。
寝ず番をしていれば夜食と清酒を出してくれて、朝も早いだろうに話をしていく。
大抵は、どうでもいいようなこと。
どうやらコックは俺との関係だけ前までと違うものにするつもりのようだった。

「俺は、今度はお前とも仲良くなりてぇ」

「…そうか。」

俺は…仲良くなんて、なりたくもなかった。
仲良くなったら、それこそ終わりじゃねぇか。



日に日に余裕の無くなっていくゾロに声を掛けてきたのは以外にもブルックだった。

「ゾロさん、少し手合せしませんか?」

「…あぁ、いいぜ」

ブルックの剣は軽いかわりに早く、手数が多い。
久しぶりに鍛練とは違う動きをした体は一瞬イメージ通りには動かなかったものの、すぐに本来の動きを取り戻す。
前…サンジとの喧嘩が当たり前だった頃には考えられなかったことだ。
一瞬の油断が勝負を揺るがすことは実践では当たり前のことだ。
眉を顰めそうになったが、今はブルックとの打ち合いが先だ。

キン、キン、キン

鋭い金属音が幾つも響く。
勝負はしばらく続き、最後はゾロがブルックの剣を力で押し切った形で終わった。

「流石ですね。私ではまだまだ勝つことはできないですね。」

「…ブルック、礼を言う。気分転換になった。」

「ヨホホホホ〜♪お役に立てたなら光栄です。………サンジさん、早く戻るといいですね。」

「…あぁ。」

ブルックは何も聞かなかったし言わなかったけれど、ゾロにはありがたかった。
流石長く生きている(いや、一回死んでるけど)だけのことはある。

サンジは打ち合いの途中で金属音に気付き、キッチンから出てきて目を剥いていた。
打ち合いを止めようとして逆にナミに止められていた。
喧嘩をしていると思ったらしい。
何でもないように振る舞っているが、やはり記憶はないのだとこんな時に実感してしまう。



昼ごはんの後、横になってぼーっとしているとロビンがやって来て座った。

「随分と余裕の無さそうな顔ね」

「…うるせぇ。今は構うな。」

「大丈夫よ。チョッパーが言うには日常生活の中で首を傾げたり考え込んでいることがあるみたい。思い出す予兆かもしれないと言っていたわ。」

「……あぁ。」

ぽん、ぽんとロビン自身の手が背中に触れる。
ささくれだっていたトゲも収まる。
ロビンの手に甘やかされて、久方ぶりの深い眠りに落ちていった。



夕ごはんの後、トレーニングルームに籠ったゾロの元に思わぬ来客があった。

「よう、一杯付き合えよ。」

「…コック」

「お、俺のこと呼んだの初めてじゃねぇか?つってもそりゃ、名前じゃねぇがな。」

コックは酒とつまみを持ってきて俺の隣に座った。


ルフィは恐ろしく食べるよな、だけどありゃコックには気持ちいいな。
ウソップは狙撃の腕が良いよな。一回見せてもらったがあれはすげぇ。
ナミさんもロビンちゃんも綺麗なのにすごい知識を持ってる。
チョッパーは幼く見えるが立派な医者だし、フランキーのロボットはどうやって作ってるのか皆目検討もつかねぇ。
ブルックはあんなナリだが綺麗な音楽を奏でるな。
ゾロは…今日偶然見たけど真っ直ぐで綺麗な剣術だったな。


つらつらと色々なことをサンジは一人で語った。
そういえば“前も”綺麗な剣術だと言っていた。
同じことを考えるなら俺のこともまた好きになるだろうか、なんて…女々しいことを考えてしまう。

「ぃ…ぉい…おい!」

「あ、わる…い」

思わぬ近さの金髪にどきりと跳ねる。
しかし次のサンジの言葉は、ゾロの上がった体温を冷ますには最適だった。

「…お前、ロビンちゃんと付き合ってるの?」

冷えていく。
指先も、きっと顔も真っ白になっているだろう。

「…なんで?」

俺を好きだと、愛していると囁いたその口で、ロビンとの関係を聞くのか
どうせそれも俺じゃない。
ロビンを気にして、だ。

「今日の昼間、二人で昼寝してんの見て気になったから」


ふぅん、と気のない素振りをしながらも随分冷たい返事が出た。
サンジもそれを察したのだろう。

「いや、別にロビンちゃんを狙ってる訳じゃなくて!その…」

慌てたその台詞もゾロの心には届かなかった。

「あぁ、別にロビンに手を出したからって怒らねぇよ。この船には今…“付き合ってる奴らなんか一人もいねぇ”。……だから遠慮せずに誰にでも手を出せ。」

あぁ、寒い。
指も、顔も、頭も、どこもかしこも冷えていく。

「…さみぃな。」

「……あ、そ、うか?」

「あぁ。今までで一番寒い。…………俺はもう寝る。だから…じゃあな。」

「え、あぁ…おやすみ。」

“じゃあ、な。意外と俺は…てめぇのことが、好きだった。”

ゴツ、ゴツ…
ブーツの音だけが響いている。
ぽっかりと何かが無くなってしまったようなのに、涙も何も流れなくて、ただただ息苦しかった。


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