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text onepiece 短編
君を裏切る日(2014年ゾロ誕記念)

君を裏切る日、なんて大げさに言ってみたけど本当はただ誕生日の準備がしたかったからちょっとゾロにキッチンから出て行って欲しいだけなんだ。
だって、誕生日のプレゼントはサプライズで渡したいだろ?

「ゾロ、今日はすっげぇ気を使って調理しなくちゃならねぇもんがあるから、よ。できればキッチンに近づかないで欲しいな〜…なんて…」

…嘘は言ってねぇ。
嘘は。
ゾロの誕生日パーティー用のご馳走を作るのに集中したい。

「…分かった。」

ゾロはいつも通りの顔で了承してキッチンを出て行った。
ちょっと寂しいな、なんて毎日同じ船に乗って顔を会せているのに考えてみたりしてそれでも俺はあいつの恋人でコックだから、あいつを喜ばせるためにも船の皆の腹を満たすためにも料理を作らなきゃいけない。
上着を脱いで腕まくりをする。
タバコの火を消して…

「…よし、やるか。」


鳥肉を捌いて一口大に切って下味をつける。本当は和食が一番嬉しいのだろうけどいかんせんこの船の…いや、船長のエンゲル係数はとてつもなく高い。和食だけではとてもじゃないが満足してもらえない。
肉を冷蔵庫で寝かせておく間にケーキの生地を作る。
つい最近島で補給をしたばかりだから作ろうと思えばどんなケーキだって作れる。けど今日作るケーキは前々から決めていたんだ。
単純でケーキの基礎とも言えるスポンジケーキ
生クリームと苺を乗せたケーキは随分と前の俺の誕生日のケーキとして作ったのだがその時のあいつは随分とゆっくりとそのケーキを食べてまた食べたいと呟いたのだ。
普段は甘いものなんて酒でも入れてないと食べようとしないから、その言葉はとても驚いた。
…でも嬉しかったのだ。
八か月後のゾロの誕生日には同じケーキを作ろうと決めてそれを忘れないでいられるほどには。
今日の為に買ったとっておきのバターを大きなケーキ型に刷毛で塗りその上から薄力粉を薄くまぶす。オーブンの予熱のついでにその型を温めその間に生地を作る。
材料を手順通りで加えて行き、本当は電動ミキサーを使う方が楽なのだけど俺は自分でかき混ぜるほうがおいしくできる気がしてハンドミキサーを手に取る。
ぐわあああああああああああああああああああ、と気合を入れて生地かき混ぜる。
手首が痛みを訴えるがここで止めてしまうなら電動ミキサーを使ってしまったほうがおいしく仕上がる。
混ぜて混ぜて混ぜて混ぜて…生地が白っぽくなってきたら粉類を加えていく。
切り返すように混ぜながら先に計っておいた予熱のほぼ終わっているオーブンに入れてバターを溶かす。
生地にバターを入れてかき混ぜて、生地にそっと注ぎ込んでオーブンへと入れる。
タイマーをセットして一息だけつく。
あとは焼き上がりとデコレーションだけだ。
…ケーキは、な。
次に米を研いで炊飯器にセットする。
魚は捌いて後は焼くだけに…。
それからそれから…と予定の確認のために見上げた時計が指すのは16時
ゾロが鍛錬をひと段落させて飲み物を取りにくる時間だ。
慌てて特製ドリンクをグラスに注いで丁度キッチンへと来たウソップに渡す。
いやいや俺もドリンクくれとは言わないが水を…、とかなんとか言うウソップに半ば無理矢理ドリンクを持っていくのを頼んで再びキッチンへと籠る。
えぇと、魚は終わったから次は揚げ出し豆腐…その後は…


この日の為に厳選した料理の数々が出来上がっていく。
冷えていたほうがおいしいサラダとケーキ以外は宴の最中に仕上げを行い出していけば大丈夫。
よっしゃ、と達成感を感じているとルフィがリビングへと入って来た。
いつも通りのつまみ食いかと警戒をしたがルフィは豪勢な作りかけの料理には目もくれずに椅子に座って伏せてしまった。
その異常事態にサンジは目をパチクリさせる。

「オイオイ、今日はマリモの誕生日だってのにまさか嵐でもくんのかよ…。」

ぼそりと呟くとようやくルフィはサンジの方向を見た。

「もしかしたら今日宴できねぇかもしんねぇぞ。」

いかにもしょんぼりとしたルフィの言葉は宴が大好きな船長だからこそ説得力があった。

「は?いやいや何でだよ?人の予定も何も聞かないお前が大好きな宴を出来ないって言うってことはとんでもなく大変なことでも起こったのか?」

いやいや、それぐらいで宴を諦めるようなやつではないとサンジは若干失礼なことを考えながらルフィの答えを待つ。

「だってよ〜、ゾロの誕生日なのにトレーニングルームからゾロが出てこねぇんだよ〜。」

そう言われてサンジも気付いた。
そういえばウソップにドリンクを持っていかせたがグラスを取りに行ってもないし返しにも来ていない。
律儀なゾロにしてはめずらしい。

「入ろうとしても入ってくんなって言われちまうしよ〜。」

それを聞いてますます疑問が浮かぶ。
ゾロは本来ルフィには甘い。
そのルフィすら拒む…?
もしかしたらこれは一大事なのかもしれないとようやくサンジも気付いた。

「…おいルフィ、俺はちょっとばかしキッチンを外すがつまみ食いなんてすんじゃねぇぞ?」

「しない………ようにはする。」

言質を取ってキッチンを出ると丁度チョッパーがトレーニングルームから降りて来たところのようだった。
しょんぼりとした姿からするとやはり拒まれてしまったのだろうか。
とんでもない緊張感でトレーニングルームに登っていき扉の前まで行く。
なんて言おうか、と逡巡しているとコック、という声が聞こえた。
どうやら気配でとっくにばれていたらしい。

「…ゾロ、入っていいか?」

「………別に。」

お許しを貰って中に入ればそこには色んな種類のダンベルや刀の手入れ道具に囲まれているゾロがいた。
むすっとした顔なんて普段無表情を決め込んでいるゾロにしては珍しくて可愛いな、なんて思ってしまうのだけどそれよりも機嫌を直すことのほうが重要だ。
ダンベルを足でずらして寄っていき、ゾロの頭を撫でてやる。
むすっとした顔でそれでも動かないで大人しく撫でられているゾロにキスでもしてやろうかとすると流石に叩かれた。

「で?可愛い可愛い俺のマリモ姫ちゃんは何に拗ねちゃってるの?」

…可愛くねぇし姫でもねぇ、と呟いたゾロにそれでも続く言葉を待っているとようやくゾロは口を割った。

「………今日は誕生日のはずなのに一番欲しいものが手にはいらねぇ。」

「え、何が欲しかったの?」

欲なんて酒以外のことに関してはそうそう口にしないゾロにしては珍しい言葉だった。
高い酒ぐらいだったら出してやろうと思っているとゾロは頭を撫でていたサンジの手を掴んでぐいと引き寄せた。

「うわっ」

よろけて倒れそうになったサンジをぎゅううう、と抱きしめ…て、って痛い痛い痛いっ!!!
ゾロの馬鹿力で抱きしめられている痛みを堪えて抱きしめ返してやるとしばらくして解放された。…いや、嬉しいのだけどね。

「…もう貰った。痛かったのはずっと放っておいた罰だ。」

ばーか、と精々小憎たらしく言ってゾロはさっさと降りて行ってしまった。
残された俺は、というと…鼻血を堪えるのに苦労していた。
今日の宴はほんの少し遅れてしまうことになりそうだ。


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