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コックさんの愚痴 3
明日の仕込みをあらかた終え、そろそろ寝ようかと思った頃にダイニングの扉が開いた。
今日の寝ず番は…ウソップか。

「なんだ?夜食でもねだりに来たの…か」

男用の笑顔を浮かべて夜食のレシピを浮かべながら振り返り…長っ鼻ではなく緑の髪を見つけ…サンジは固まった。
緑髪…ゾロは決まりが悪そうに身じろぎを一つした。

「夜食はいらねぇが…酒、貰ってもいいか?」



酒の入った棚を指差すゾロだが、普段ならば決してサンジの起きている時間に酒を取りに来ない。
サンジが仕込みを何もかも終え、寝た後で勝手に酒を漁り、サンジは朝、減った酒瓶を見ることでゾロが昨日は何を飲んだのか知るのだ。
最初の頃はただただ減る酒を見て、言ってくれればつまみでも付けてやるのに、と落ち込んでいたが、それが毎晩続き昼間寝ているゾロを見て、どうやらコイツは寝ず番じゃない時も…多分ほぼ毎晩起きているらしい、と気付いた。
正直ルフィなんかが寝ず番の日はマストの上で寝てしまっているのでありがたい。
…が、昼間は昼間で鍛練をして、疲れはてたように昼寝をし始めるとルフィがちょっかいをかけて遊び始めるのだ。
しょうがねぇな、と言いつつもルフィに付き合うゾロ
珍しく一人で寝ているかと思うと脇を通っただけで薄く目を開けるのだ。
いつならコイツは心を許して寝られるのか、とつい考えてしまう。


「別に構いやしねぇが…今日も寝ないのか?」

聞くとキョトンとした顔をして、、、気付いてたのかと呟いた。
それから言い訳のように習慣だ、と言った。

扉の前で立ったままのゾロを取り合えず座らせる。
丁度沸かしていたお湯を前に…少し悩んでから米酒を使いお湯割りを作る。
度数は落ちるが人肌の温度になって落ち着くはずだ。
猪口を二つ持ちゾロの正面の椅子に座る。
ほい、と酒を注いでから先に呑むと、ゾロもそれに倣って盃を傾ける。
ほぉっと吐き出された息と共に、肩の力が抜けたのがわかった。
頭を撫でてやりたい衝動を抑え(んなことしたら殴られる…。)、で?と目線だけで先を促す。
ゾロは自分でお湯割りを注ぐと再び煽り、そして話し出した。

「海賊狩りの頃は夜のほうが襲われやすかったからな」

「今は海賊だろ?自分んとこの船に乗ってて闇討ちなんてそうそうねぇよ」

「わかってる。けど言っただろ。習慣だって、、寝たくても寝れねぇんだよ」

まるでそれが自分の業、とでも言いたそうなゾロに…サンジは少し目を細めた。
賞金稼ぎは悪ではないのに、それでもこの男は魔獣などという恐れのこもった通り名で呼ばれ、夜は悪党から、昼は一般人から嫌な目で見られたのだろう。

ふーん、と気の無い素振りで追求は行わず、「で、なんで今日に限って聞きに来たんだ?」と尋ねる。

「たまにはお前と呑むのも悪くねぇと思ったんだ…お前いっつも仕事しててゆっくり呑んでるとこ見たことねぇなって…」

ぼそぼそと言われる言葉に…一気に体温が上がる。
…が、甘いもん食いたいと言われ嬉々として作ったらナミさんからの差し金でした。実はそんなに甘いもの好きでもなかったです。という苦い思い出は記憶に新しい…。

「ナミさんになんか言われた?」

聞いた瞬間、明らかに詰まるゾロ
あぁ、やっぱり。と思いつつも落胆を隠せない。

「一人で呑みたいなら呑んで良いぞ。ナミさんには俺から上手く言っておくから」

ゾロと一緒に居れるのは嬉しいし、ナミさんの心遣いも嬉しい。…が、肝心のゾロの気持ちを無視してまで一緒に居たくは…ない。

なるべく自然に、喧嘩を売っているようには見えないように笑いながら言ってみる。
ゾロが喧嘩腰ではなく普通に話してくれるのだ。こんなことは滅多にない。自分の態度のせいでこの空気を壊したくはない。

「…違う」

だから…ゾロがそう言った時は耳を疑った。

「…ナミに…言われたことは合ってるが…ナミにはお前が仲間になりたがってるって聞いただけで…でも仲間って言われてもどうすれば良いのかわかんねぇし…だから取り合えず酒でも呑もうかって………いや、別にいいか。なんでもねぇ、変なこと言っちまって悪かった。」

「ちょ、ちょっと待てよ!!」

自己完結して立ち上がろうとしていたゾロの腕を掴み止まらせる。

仲間になりたいという言葉を聞いてどうすれば良いのか考えて、酒に誘ってくれた…?いつも一人で呑むゾロが?

「…悪かった。お前は朝も早いもんな。酒なんて呑んでたら朝ツラいよな」

尚もそう言い、サンジの手を振りほどこうとするゾロに取り合えず「酒がまだ残ってる」と言い留まらせる。

「なぁゾロ、俺もまたまには酒でも呑みてぇって思ってたんだ。でも俺酒強い訳じゃねえからさ、もし潰れたら部屋に運んで欲しいんだ。だから…一緒に呑まないか?」

戸惑った顔のゾロがそれでも頷いたのを確認してから手を離す。
素直に椅子に座ったのを見てから立ち上がり酒棚に行く。日頃のゾロの食事風景を思い出しながら味の好みを予想して酒を数本選んだ。


深夜の酒を一口呑んで、驚いたようにゾロがその瞳を見開くのは…もう少しだけ後のお話…。





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あきゅろす。
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