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命ーミコトー
3
「うーん…。」

私はベッドに寝転がりながら唸っていた。
やっぱり、どうしてか蓮見の家の用事が何なのか気になるのだ。
あまりに気になったからか、全く関係ないのか、なぜか宿題をいつもより倍以上終わらせられた。うん、それはいいのだけれど…。


「電話しちゃ…まずいよね…。」


私は携帯とにらめっこした。すると突然携帯が鳴った。
驚きすぎて、携帯を手から落としそうになる。ディスプレイを見ると、蓮見からだった。私は慌てて電話に出た。


「も、もしもし!」


自分でもびっくりするほど大きな声が出てしまった。
電話の向こう側で蓮見が笑っている声がする。


『ぷっ。どんだけやる気のある電話だよ…。』
「うるさいなー。どうしたの、蓮見?」


恥ずかしくて顔を赤くさせながらも、平静を装って話す。

『榊、今日なにも用事ない?』
「え?うん。宿題も今日の分はちゃんとやったし…。」
『そうか。じゃあ、一つ頼まれて欲しいんだが…。』


そう言って蓮見は早口でまくし立ててきた。
今から町に急いで出てきて欲しいこと。年齢より上に見える格好で着て欲しいということ。
あんまり早口なので、待ち合わせ場所をメモするのが大変だった。


『榊、分かったか?』
「え…うん、ちゃんとメモ取ったけど。」
『じゃ、頼むな。早く来てくれ。』
「えっ!ちょ、ちょっと!蓮見!」


ブツリと一方的に電話を切られてしまった。


「もう…何なのよ。」


無視してやろうかと思いつつも、せっせと出かける準備をしてしまう私。惚れた弱みとでも言うべきか…。
しかも、この間買ったばかりの新品の洋服手にしてしまっているし…。
私は少し浮かれてしまっている自分に苦笑しつつ、急ぎ足で家を出て待ち合わせ場所に向かった。


蓮見が言った場所は私の住む田舎とは違い、色々なブティックだとかが並んでいて、ちょっとセレブ感漂う場所だった。
絶対一生私は行かないなと思っていた場所なので、自分の格好が変じゃないかと気にしてしまう。
あとで蓮見に電車代を請求してやろう、とか思いつつ歩いていた。


しばらく歩いていると黒い車が見えてきて、うわー高そうだなと思いながら通り過ぎようとしたとき、車に寄りかかっていた男の人にいきなり肩を掴まれた。


「うわっ。」
「何行き過ぎようとしてんだよ、榊。」
「…えっ、蓮見。」
「何驚いてんだよ。この格好朝も見てただろう?」


いや、そうなんだけど。やっぱりスーツを着込んでまじめな顔をして高級車に寄りかかってたら、蓮見と思えないというか。


「…うん、その格好だったら二十ちょいに頑張れば見せられるか。」


蓮見は私の格好を頭からつま先まで見ながら言った。

「ねえ、私は一体何のために…。」
「それはまた後で、とにかく行くぞ。」
「ちょっとちょっと!」


蓮見は半強制的に私の背中を押して、高そうな店の中に連れて行った。


連れて行かれた先はいかにもセレブ御用達の美容院だった。どこもかしこもピカピカしていて、綺麗なお姉さんに笑顔で出迎えられ、イスに座らされた。


「本日はどうのようになさいますか?」
「え?え?」
「ああ、とりあえず大人っぽくさせて下さい。」


蓮見はそう店の人に言うと、自分はソファに座って足を組み、優雅に雑誌を読み出した。


「ちょっと!蓮見!」
「あ、顔動かさないで下さいねー。」


お姉さんに注意され、私は渋々鏡へと顔を戻す。
お姉さんは色々と聞いてくるが、私は化粧なんてしたことないのでただただ頷くばかりであった。


「お連れの方、格好いいですね。」


お姉さんがこっそり私に耳打ちしてきた。
確かに、正装している蓮見はいつもより倍は良く見える。私は少し笑った。

「恋人ですか?」
「え!?」


思わず大きな声を出してしまった。お姉さんはクスクス笑っている。
段々と恥ずかしくなってきて顔がみるみるうちに赤くなる。


「可愛らしいですね。二人とも、良くお似合いですよ。」
「いえ…あの…。」
「はい、できましたよ。」


弁解する暇はなく、お姉さんはポンと私の肩を叩いた。
鏡を見ると、そこには見たこともない自分がいた。
髪の毛はゆるく巻かれていて、キレイに化粧したその顔は、どこかいいとこのお嬢さんのようで、二十代前半くらいに見えた。


「終わったのか。」


蓮見が後ろから声をかけてきたので、私は少し恥ずかしがりながら振り向いた。
しかし、蓮見は恐ろしいくらいの真顔で私をじっと見た挙句、「行くぞ。」と一言だけ言って私の手を取って立ち上がらせた。

「え?ちょ、ちょっと!」
「会計はもう済ませてある。」
「いやいやいや。」
「ありがとうございました。」


お姉さんはにこやかにお辞儀をして、私たちを見送った。
いやいや、お姉さん、助けてください!



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