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命ーミコトー
11
藤家は蓮見の部屋に入って、そのあまりのいつも通りさに、かえって切なくなった。

「ほら、飲め。」

蓮見は藤家につめたい麦茶を出してきた。
藤家は軽く頭を下げて口をつけた。
その様子を蓮見はじっと見つめていた。
あまりに観察するように見てくるので、さすがに藤家もやり切れなくなり、少し眉をひそめた。

「あの、何か?」
「ああ…何か、お前、変わったなと思って。」
「変わった?俺がですか?」
「まあ、俺は授業でしかお前を受け持ったことが無いから何とも言えないけどな。何か、開いたって言うか…うーん。とにかく何だか人間らしくなったって言うか。」


 その言葉に藤家は少し表情を和らげた。


「だとしたら、先生。それは先生と榊のおかげですよ。」


その言葉に蓮見は首をかしげた。
それはそうだ。藤家と関わったこの三週間ばかりのことを全く覚えていないのだから。

「まあ、深く考えないでください。とにかく、感謝しているんですよ、先生。」


そう言って藤家は目を細め、また麦茶を口にした。
蓮見はただ、そうか、と呟くことしかできなかった。
ただ、蓮見の心の中に何か引っかかったような思いがした。
それは、藤家によるものであるのだが。


藤家は、自分の力を自覚してからというもの、命のように密かに光と訓練を重ねていたのだった。
自分のエゴで使うのではなく、自分の大切な人を守るために。

そして今、自分の大切な人が苦しめられている。
命のことはもちろん、蓮見も藤家にとって心の許せる大切な存在だった。
そして、二人のことを良く見ている藤家だからこそ、二人が互いにどういう気持ちを抱いているかも分かっていた。
この状況を利用して、命のことを手に入れることはもしかしたら可能かもしれない。だが、藤家はそうは考えられなかった。
昔の藤家なら、綺麗ごとだと言って鼻で笑い飛ばしそうだが、ただ藤家は命の幸せを祈っていたのであった。

「先生は、本当に新藤先生を愛してるんですか?」

藤家は、声を媒介にこそしているが、それと同時に直接心にまで畳み掛けていた。
蓮見の心には藤家の言葉がきちんと響いているだろうか。
藤家は無理やり蓮見の記憶を取り戻させることは出来ないが、そのきっかけを作ろうとしていたのである。


「藤家?急にお前、何を言い出すんだ。」


蓮見は急に突飛な事を言い出した藤家にギョッとした。
そういう色恋沙汰の質問をするタイプには思えない。
しかし、その目は真剣で、とてもからかっているようには見えなかった。
蓮見は一つため息をもらして答えた。

「ちゃんと好きだから付き合ってるんだよ。」
「そうですか。」


意外にもあっさりと藤家が引き下がったので、少し蓮見は拍子抜けしてしまった。


「いやね、俺は先生はもしかしたら榊のことが好きなんではないか、と思っていたもんだから。」


その言葉に、ちょうど麦茶を飲んでいた蓮見は噴出した。


「な、一体何を!?……はあ、大体榊は生徒だろう?」
「でも、目に見えて贔屓していましたんで。」
「いや、まあ確かに、榊のことは特別可愛がってるとは自分でも分かってるが。でもそれが恋愛と絡んでいるかといわれたら、それはまた別…。」


その時、蓮見は自分の心に何か突っかかっているようなものを感じた。
一度気づくと、何だか少し気持ちが悪く、不快な思いだ。
蓮見が顔をしかめて首をかしげながら胸のところを押さえているのを見て、藤家は立ち上がった。


「そういう思いが無いのならいいんです。」
「藤家?何だ、もう話は終わったのか?」
「ええ、正直先生にはガッカリです。」


藤家は真っ直ぐ蓮見の目を見ていた。
あまりにも真っ直ぐ見るものだから、何だか心の奥底まで覗かれている気がして蓮見は少し恐怖を覚えた。



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