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命ーミコトー
6
瑠璃と夜琴は人目を避けるよう、更に人里離れた場所に住まいを貰った。ミコトは村人に見つからないように、今度はその周りに結界を張り巡らせた。
この一件で、ミコトと瑠璃はまだぎこちないものの少しずつ関係を修復して行った。

私としてはこれは良い結果となった。ミコトと夜琴を引き離すことが出来たから。私も陽も今まで以上にミコトを外に出さないようにした。
現在は村が荒れていて危ないと言う理由で。
とは言っても、幼い頃から脱走を幾たびも繰り返していたミコトはよく私達の監視をすり抜けて夜琴に会いに行ったりしてしまっていたが…。


ミコトと夜琴は今までと同様には自由に会うことが出来なくなっていた。ミコト自身仕事に追われていたし、更に気心の知れた幼馴染からの監視である。
さすがに今思えば軟禁状態に似たものだったし、この頃からはもう私と陽は半分狂ったようだった。愛というか、執着に近いものだったと思う。とにかく、優しいものではなかった。


ミコトは自分の愛する人をいくら瑠璃とはいえ、他の女と共にいさせておくのはとても落ち着けるものではなかったのだろう。
過労と心労で、少しずつミコトは弱っていくように見えた。


ある日私は、ミコトと夜琴が二人で会っているところを発見してしまった。いつもなら迷わず邪魔しに行くのだが、その時私は二人に近づいて引き離すことをしなかった。いや、出来なかったのだ。
あんなに幸せそうなミコトを最近見たことが無かったから。


ミコトに必要なのは紛れもなく夜琴だし、幸せにしてやれるのも奴なのだろう、とさすがの私も分かってはいた。
それがありありと目の前に突きつけられて私は頭が真っ白になった。自分が邪魔な存在な事にありありと気づかされた。
だけど、私は信じたくなかった。そうして、あの男はミコトには似合わない。最低な男なのだと自分に言い聞かせ始めた。
不思議な事に何度も何度もそう思っていると、真実はどうであれ、自分の中の現実はそうなっていくのである。


そこでとうとう、私は自分の力を自分のエゴで、許されぬことをしでかしてしまった。


狛には一人ひとり力の強さには変わりはあるが、何らかの能力を持って生まれてくる。それに一生気づかない人もいるし、生まれた時からその力を操れるものもいる。
私は性質が悪かったと言うか、二つの力を持っていた。一つは、人の傷を癒す力。だから私はそれが自分の能力だと思っていた。でも違った。
本当はもう一つ他の力を持っていた。


 ……洗脳の力だ。』


そう言うと、光さんは一度言葉を切った。

少し話し疲れてきたのだろうか。それともこの後に話す過去を前に動揺しているのだろうか。死んでいる人に向かって適切なのかは分からないが、本当に死人のように真っ青だった。


「光…お前…。」


藤家は少し驚いたように光さんに呼びかけた。光さんは藤家と目を合わせると、かすかに微笑んで頷いた。


『大丈夫だよ、月音。

洗脳の力は、使い方によって大きく化ける。それが人を救ったり、人を傷つけたり…。まあ、どちらにしても自然な状態から逆らうことになるから出来れば封印しておくべき力だ。
でも私はそれを大事な人を相手に使ってしまった。一時の激情に身を任せて…。

どういう経緯だったか、あまり良くは覚えていないが。それから数日して、ミコトから夜琴の事で相談されたんだ。内容すら覚えていない。
ただただ怒りと嫉妬と、醜い感情だけが私の心を支配していたから。

私は半分無意識に、半分は故意にミコトに対して力を使った。
そういうのは、自分にそんな力があるとは分かっていなかったけれど、この言葉でミコトの気持ちが夜琴ではなく私に向いてくれれば、と強く思いながら発した言葉だったから。


…そんなに苦しいなら私を好きになればいい。お前は夜琴に利用されているんだ。私はあの男を好きにはなれない、むしろ憎んでいる…。

とにかく私は今まで自分の中に溜め込んでいたものを一気にミコトにぶつけた。初めて使ったから全く制御されていない力に乗せて、多くの言霊が頭の中に入ってきたミコトは、それから顔を真っ青にして頭を抱えながら倒れこんだ。

そこで、私はやっと我に帰った。そうして青ざめた。こんなに醜い部分を見せてしまってミコトに軽蔑されるかもしれない。
ミコトの体調を心配する前にそういう自分勝手な事を考えた私は、やはり真実の意味では愛していなかったのかもしれない。
とにかく私はミコトを横にさせ、自分のもつ治癒の力でミコトの看病をした。倒れたけれどどこも悪いところは無いようだった。
しかし、それから三日間ミコトは意識を取り戻さなかった。

三日後に目覚めた時、ミコトは今までのミコトとは違っていた。



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