[携帯モード] [URL送信]

命ーミコトー
5
 もうミコトの母上も病で逝かれていたし、兄弟達もあまりからだが強いほうでもなかったのでみんな亡くなってしまっていて、あんなに昔は家族がいたのにミコトはただ独りになってしまった。

私も、陽も、その頃にはもう働きに出ていたから四六時中一緒にいてやることも出来なかった。
お父上が亡くなってミコトが新しい榊家の当主となり、亡き父を悲しむ間もなくせわしない日々を送っていたところに、ずっとただ傍にいたのが…夜琴だった。

ミコトは、はじめはすぐに夜琴をいるべき場所に戻してやるはずだった。だけど、やっぱり寂しかったのだろう。あともう少し…あともう少しだけと、ミコトは夜琴と過ごしていった。
そのうちに、兄妹以上の感情を抱いていってしまった。


私も陽も、その変化にすぐに気づいたよ。何年もずっとミコトを見てきたから。だから、私達は二人がかりでミコトを説得しようとした。…でも、ダメだった。ミコトの目を見ていたら何もいえなかった。
ミコト自身、一番自分が許されない気持ちを抱いていることを責めていたから…。


その頃瑠璃は、ミコトの説得によりミコトの父上から人里はなれたところにもらっていた住居で暮らしていた。
彼女自身、敵であるものの世話になるのを大変拒んでいたが、住む場所も仕事も与えられて身の安全まで保障されたのでそれを断ることが出来なかった。ひどい屈辱だったと思うよ。
ミコトは良かれと思って瑠璃にそこまでしたんだが、瑠璃にとっては反対に惨めな思いをさせられたと疎ましがっていた。
昔はあんなに仲良く過ごしていたのに、二人の間に溝はどんどん深まっていった。


ある時、瑠璃の存在が村の者に見つかった。その村人は村でも腕っ節の強い人々を集めて夜中に瑠璃のもとを襲いにいった。
家は壊され、いくら妖怪と言えども大勢のものに襲われた瑠璃はひどい怪我を負った。怪我を負った瑠璃は自分の力をコントロールできなくなっていた。
そもそも自分の許容量以上に夜琴と引き換えと言うことでミコトから力を貰っていたから、それが爆発してしまったんだ。


村は何日も何日も大雨に見舞われ、土砂崩れや洪水が起こり、多くのものが亡くなった。
負の連鎖はどんどんと瞬く間に広がっていって、飢饉、伝染病…本当にあの時は村中が地獄絵図のようだった。ミコトは巫女としてその対応に追われていた。


夜琴は邸の中で一人だけになっていた。そして、村の人々に見つかってしまった。今までミコトは必死にその存在を隠してきたのだが…。
ミコトの巫女と同じ赤い目を持つ不吉なものとして村人達の目に映った。村人達は瑠璃は自分達が殺したものだと思っていたから、この災害は全て夜琴によるものだと考えた。
ミコトの知らないうちで、夜琴は魔物として奉り立てられた。彼自身、何もしていないのに…。


私も陽も、その現状には気づいていた。そして、これらの犯人が夜琴ではないこともちゃんと分かっていた。だけど、私達は何も言わなかった。このまま、運よくいけば邪魔者がいなくなるかもしれない、と…。


ここで私達が止めていたら、未来は違っていたかもしれない。

夜琴が迫害されていることを知ったミコトは、すぐにその噂の本当の正体は瑠璃なのではないか、と気がついた。
ミコトが瑠璃を尋ねに行くと、そこには破壊された家と瓦礫の影に隠れている瑠璃の姿を見つけた。精神的なショックと共に、積み上げられてきた力が爆発したのだろう。
一本だけだったはずの白い尾は四本になっている。天狐へと変化していたのだ。私はその時、ミコトと共に一緒に瑠璃のもとを訪れていた。陽はその頃お役所仕事で大変忙しかったからな。


何年かぶりの再会だった。瑠璃は昔よりも更に綺麗になっていたけれど、その表情は険しく、本当に狐のようだった。どうも昔の私達は瑠璃を人間と認識してしまっていたのだが、この時改めて瑠璃が人ではない、妖狐だということを思い出した。気が先立っていた瑠璃にはなかなか近づくことが出来なかった。


…私は、瑠璃をゆっくりとなだめていった。私は人の心に直接働きかけることが出来る能力を狛として持っている。そこで彼女に今の現状を伝えた。
瑠璃は、人間自体に再び強い恨みを持っていたが、私のことは受け入れてくれていた。こう自分で言うのもどうかと思うが、瑠璃は昔から私のことを慕ってくれていたから。


もとはといえば村人達のせいではあるのだが、自分の暴走してしまった力の罪が夜琴になすりつけるという結果になってしまっていることを知って、瑠璃はさすがに心を痛めた。瑠璃は、夜琴のことを可愛がっていたから…。
力を得るためだけに利用していたわけじゃなかった、と私は今では思う。一人ぼっちで寂しかった瑠璃には、夜琴が心の救いになっていたのだろう。瑠璃は夜琴を自分が預かると提案した。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!