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命ーミコトー
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目がハッと覚めた。ちょうど蓮見が私を起こそうとしてくれていたところだったのだろう、片手を私のほうに伸ばしてそのまま固まっていた。

「びっくりした…。ちょうどお前を起こそうとしていたところだったから。」

私はゆっくりと体を起こして藤家のほうを見た。

「榊、何か分かったんだね。」

「うん。多分光さん、あそこにいると思う。」

あの夢で見た場所に光さんはいるのだろう。もしあの夢を見たところの私の推測が正しければ、きっと蓮見の身に起こったことに、過去の出来事を重ね合わせてしまっているのかもしれない。


「どちらにしても、色々と聞きたいことはあるし。うん、行こう。」


私達は三人で家を出た。目指すは更に山の上の方。そこには何もないからあまり行った事がないけれど。当然人が通らないので道が整っていない山道である。近くの木に手をつきながら慎重に三人で上っていく。


「おい、どんどん上に行ってるけどこの山に光さんはいるのか?」
「うん…。」


段々開けた場所が遠くに見えてくる。そこまで到達すると、そこには野原が広がっていた。花が風に吹かれて揺れていて、こんな山の中にこんな綺麗な光景が広がっているのは何だか不思議な気がするけれど。

そこにポツンと一人、光さんがたたずんでいた。

「光っ。」

藤家が声をかけると、光さんはゆっくりと振り返った。いつもの調子のいい感じで。


『あーあ、見つかっちゃったね。良く私がここにいると分かったね。』
「はい…。夢で、ミコトの巫女の記憶、光さんの記憶でもあるけれど覗き見しちゃいました。」

私がそういうと、光さんは肩をすくめながら私達のほうに近づいてきた。

『そうか、じゃあ、気づいちゃったのかな。私が過去にやった過ちを…。』

光さんはふっと息を吐くと、ゆっくりと語り始めた。



『私の知っていることを、包み隠さず話すことにしよう。私が知っている限りのミコトの死までを…。



私とミコトと陽、本名は秋継といい、私も四海という名なのだが、いわゆる幼馴染みというやつだった。

ミコトの父上は…そうだな、村長ではなかったが村で一番力を持っていて、この村を守っていて下さっていた。狛である私たち二人は随分と世話になっていた。

この村には、人間と敵対するものたちが住んでいた。妖狐というものたちだ。

お互い忌み嫌っており、何百年も争いが続いていた。

しかし、その戦いもついに終わりを告げた。ミコトの父上が妖狐一族を絶滅させたから。

もちろん、その頃幼かった私達はその事実を知らなかったのだが。だけど一人だけ、生き残りがいた。

私たち三人はそのものと出会ってしまった…。』

「それが…瑠璃さんですか?」

 光さんは黙って頷いた。

『はじめは人間を警戒しており、憎しみを抱いていた瑠璃も、何度と無く私達が訪れるうちに次第に心を開き、仲良くなっていった。

ミコトの父上の目を盗んでは、私と陽は脱走の手助けをして、瑠璃のもとへ遊びに行っていた。瑠璃が段々と力をつけ始めると、四人で変装して町にも下りて行ったりした。

だがある日、瑠璃は知ってしまったのだ。

自分の家族を、仲間達を殺したのがミコトの父上だと言うことを。

私達も瑠璃に迫られて初めてその事実を知った。いや、うすうす感付いてはいたのかもしれない。

瑠璃はひどく裏切られた気持ちでいっぱいだったのだろう。

それから五年、私たちは会わずじまいになった。

 五年後、ミコトの父上は病で倒れられた。この話は、陽がしていたな。

ほとんどあの話の通りなのだが、陽は瑠璃のことも夜琴のこともひどく恨んでいるからな。私も、恨んでいないと言ったら嘘になるが、私は陽が知らない真実を知っている。

ミコトの死に関しては、私は共犯者なのだから…。』

『共犯者』

その言葉を聞いて、私たちは身を固くした。だって、その言葉をそのまま取ってしまったら、つまりミコトの巫女の死に光さんが関わっているということになる。

そう心配している私たちに光さんはふっと笑った。

『いや、心配しなくていい。私の言葉の意味は別に直接手をかけたと言うことではなくて、そうだな…そのきっかけを与えてしまったということかな。』

「きっかけを…?」

光さんは静かに頷いた。

『お前たちに私の罪を話すかどうか、ずっと悩んでいた。

過去の私たちの争いに巻き込まれてしまっているお前たちは、その過去を知る権利があるし、当事者でもある私は伝える義務があるだろう。

しかし、私は怖がりで卑怯ものだった。罪を話して可愛いお前たちに軽蔑されてしまう事が怖かった。

また、話すことで醜い私と対面することが恐ろしかったのだ。』

そこで光さんは一度言葉を切った。目を閉じて一息つくと、ゆっくりと目を開けた。

『数百年経っても、ミコトの姿は今でも鮮明に思い出すことができる。
今の私の姿を見て、あいつがどう言うかも想像できる。きっと叱咤し、ぶん殴られることだろう。』

光さんはクスクスと笑った。きっとミコトの巫女を思い出しているのだろう。その表情は幸せそうだった。

『ここで一人で何日か考えていた。すると、段々と気持ちも穏やかになってきた。ここで私は再びミコトに会うことが出来た。』

「え…?ミコトの巫女に…?」

『ああ、ついさっきだよ。ミコトの姿が見えたんだ。幻かと思ったよ。まあ、今の私自体幻のようなものなんだけど。

彼女は静かに笑って口を開いた。声は聞こえなかったが、その口で何を言わんとしているかは伝わった。

…もういいよ…

とその口は動いて、子どものように笑ったかと思うと、その姿はお前たちが来た方向へと消えていった。

そこでやっと決心がついたんだ。このまま言わなかったらそれこそ格好悪いからね。』

光さんは肩をすくめると私の肩に手をおいた。

『きちんと話すよ。私の知る全ての私たちの話を…。ただ長くなるから、家へ戻ろうか。一緒に…ね?』

光さんは藤家へ微笑みかけると、その頭を撫でた。いつもは怒り出す藤家も、この時だけはそのまま。ただ黙って頷いていた。



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あきゅろす。
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