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命ーミコトー
3
気がつくと、私は森の中にいた。少し離れたところにミコトの巫女の姿があり、腰を下ろして俯いていた。
どうやらミコトの巫女の記憶の中にいるようだ。ここで第一関門は突破である。普通に夢なんか見たりしたら、それこそ笑えないから。

「ミコト!」

私のいる場所の後ろで声がした。ミコトの巫女はパッと嬉しそうに顔を上げる。私が振り返ると、一人の青年が走ってくる姿が見えた。
上に一つに結んだ黒髪を揺らし、上等そうな着物を着ている。私が知っている光さんよりもやや若く見える。相変わらず綺麗で、どこか藤家に似ているように見えた。いや、けっこうそっくりかもしれない。


「四海!」


四海?ああ、そうだそうだ。光さんの本名か。ミコトの巫女は立ち上がると光さんの胸に飛び込んだ。
ミコトの巫女は私に似ているので、どうもこの光景は私が藤家に抱きついているように見えて何だか変な気分である。


「ミ、ミコト?…ど、どうした?手紙であった怖いことって何があったんだ?」


突然ミコトの巫女に抱きつかれた光さんは目に見えてうろたえていて、そっと壊れ物を扱うかのようにミコトの巫女の体を自分から引き離した。


「あのね、四海。知らない男が私を訪ねてきたの。」
「知らない男?」
「ええ、私は知らないのに向こうは私の名前を知っていたの。私が誰?って聞いたら、すごい力で私の腕を掴んで。ほら、ここ。」


そう言うとミコトの巫女は自分の腕を晒した。そこにはくっきりと大きな手形の痣が残っていた。光さんは思い切り顔をしかめた。


「一体、誰がそんな事を…。どんな人物だったんだ?」
「若い男よ。髪が四海よりも長くて、私と同じ赤い瞳をしてた。」
「赤い、瞳…?」


そう聞いて、私は一人しか思いつかなかった。でも、まさか…。


「それって、夜琴のことだろう?お前、何言ってるんだ?」


ミコトの巫女はキョトンとした顔で首を振って言った。


「夜琴?誰それ。そんな人知らない。」


はじめ、ミコトの巫女がふざけて言っているのかと思った。しかしどうやらそうではないようだ。光さんが驚いて何も言わないのを不安そうに見つめていた。


「四海?」
「…ミコト、お前、夜琴を知らないっていったか?」
「知らないよ。四海は知ってるの?その人のこと。」
「知ってるって……お前の恋人じゃないか。」


光さんは苦い顔でそう言った。ミコトの巫女は眉をひそめて首をかしげたが、すぐに声を出して笑った。


「何言ってるの?私の恋人は四海じゃない。」


これは、どうなっているのだろうか。確かにミコトの巫女と夜琴は愛し合っていたはず。二人とも別れてしまったのだろうか。


いや、違う。


そもそもミコトの巫女には夜琴自身の存在が記憶から消されてしまっているのだ。

それに光さんの様子が可笑しい。顔は見る見るうちに青ざめて、体は小刻みに震えている。


「私…が……?」
「四海?」


異変に気づいたミコトの巫女は光さんにへと手を伸ばすが、その手を避けるかのように光さんは後ずさった。何か恐ろしいものと対面しているかのように。


「私が、お前をそうしてしまったのか…?」
「四海…?」
「私がああ言ったから?私の、この恐ろしい力が…?」


光さんは膝から倒れると自らの頭を地面にへとつけた。


「四海!?何してるの?」
「すまない、ミコト。私が…!私がお前を…。」


そこで目の前の映像は徐々に霞んでいった。光さんの悲痛な叫びが最後まで残っていた。


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