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命ーミコトー
15
「だけど、俺、榊に会えて本当に良かったと思っている。」
「え?」

 藤家の顔は晴れ晴れとしている。

「榊のお父さん、お母さんを見て、両親ってこんなのなんだな、と思ったし、色んな人と触れ合うことも出来た。少し前の俺なら、考えられなかった。」
「……そっか。」


私は微笑んだ。何の言葉もかけてあげれることは出来ないけれど、一緒にいることは出来ると思った。
しかし、藤家はまた表情を暗くした。

「藤家?」
「榊さ、先生と何かあった?」


藤家のその言葉にギクリとした。


「な、何で?」

指先が冷たく感じた。藤家はため息をついた。

「榊、分かりやすいからね。避けてるでしょう。」


藤家に話せば少しは楽になるだろうか。
私は、海で夜琴に会い、言われたことを話した。藤家の顔は怒りで染まった。

「何それ。榊を消すって?大丈夫、そんなことはさせないから。」
「うん。」
「榊のことは、ちゃんと守るから。」


そう、これが私の求めていた答えだ。
だけど、どうしてだろう。蓮見の方が本当に私のことを思ってくれたように感じたのは。
藤家は、私のことを守るといってくれているのに…。


「でもさ、それでどうして先生と気まずくなるわけ?」


藤家がカキ氷を食べながら、首をかしげて聞いた。
私は、蓮見に相談したら言われたことを話した。藤家の表情が見る見る険しくなっていく。


「ひどい…。」
「でしょう?」
「ひどいよ、榊が。」
「え!?私が…?」


藤家はじっと私の目を見た。その目には軽く狂気の色が浮かんでいて、私は何だかすごく怖かった。


「どうして、蓮見先生のところには相談しにいいって、俺にはしたくれなかったの?」
「それは…。」
「榊はいつもそうだ。俺には隠し事をする。先生に話しても俺には話さない。いつも、先生じゃないか。」


藤家はテーブルの上にあった私の手を掴んだ。あまりの力で握るので、爪が食い込んで痛い。


「藤家、痛い。」
「榊も、やっぱり俺はいらないの?」


藤家は力とは裏腹に、頼りない泣きそうな表情をしている。

「そんなこと、ないよ。」


私は藤家の手に、もう一方の手を重ねた。少しずつ、手の緊張がとけていく。

「ねえ、榊。本当に…自分でもどうしたらいいか分からないんだ。」

すがるように藤家が私の手を引き寄せて、自分の額に当てる。


「大事なんだよ。もっと、頼ってほしい。俺も、榊を守ってあげたい。一緒にいたい。」
「藤家…?」


藤家は少し伏せていた顔を上げた。その顔は、私が今まで見たことの無い表情だった。


「わ、私だって、藤家のこと大切だよ?」


私がそういうと、藤家は少し悲しげに笑った。


「でも、榊の大事と、俺の大事は違うんだよね。」


私はその言葉にひどく胸が痛んだ。


藤家の目は、私をじっと見据えていた。奥の奥まで。私も、目が離せないでいた。

「榊、俺を好きになってよ。先生ではなく、俺を…。」


その言葉は目の前で言われているはずなのに、頭の中に響いてきた。その目と、その声で、頭がクラクラしてくる。


「ねえ、榊、俺は…。」

その言葉を最後まで聞く前に、私の意識はプツリと事切れてしまった。



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