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命ーミコトー
12
医者が救護室から出てきたとき、蓮見はその男に対して何だか奇妙な感じを受けた。
美嘉や有里や藤家が再び部屋に入っていく中、蓮見はじっとその男の姿を目で追っていた。

「あの、すみません。」

気づけば勝手に口が動き、男を呼び止めていた。男は少々驚いたように振り返り足を止めた。


「どうかしましたか。あの女の子なら何も心配はなく、大丈夫ですよ。」
「いえ、あの…。」


蓮見は自分が抱いているこの疑問をうまく説明することが出来なかったが、なぜかこの男を引き止めなければならないと感じたのだ。


「ちょっとお話してもいいですか。」
「いいですよ。」


すると男はそばのソファに腰掛けようとしたので、蓮見は慌てて言った。


「あの、出来ればここではない場所で。」
「……分かりました。」


男はニコリと頷いた。蓮見は、こんな普通な男にどうしてこんなに嫌な感じがするのだろうと、自分でも不思議に思ったが、とりあえず自分の直感に従ってみることにした。
蓮見は昔から勘などがいいほうで、外れたことがなかった。


蓮見と男は、先ほどまで命と瑠璃がいたあの岩山の方へ向かった。


「あの、こんな所で一体何の話でしょうか。」


男はいきなりこんな場所に連れてこられたからだろうか。なんだかソワソワとしている。
 

蓮見は、これから自分が言おうとしていることのあまりの馬鹿馬鹿しさに、泣きたくなった。だが、直感がそう告げているのだ。
こんな事、普通ならある訳はないのだが…。蓮見はぐっとこぶしに力を入れた。


「あなたは…、人間ではないですよね。」


そう蓮見が言った言葉に男はきょとんとした。そして、クスクスと手を口元に当てて笑い始めた。


「一体何をおっしゃるかと思いきや、何ですか、そんな風に私をからかうためにわざわざこんな所へ?
それに、どう見たって人間でしょう。そうでなければ何だって言うんです。」
「すみません。そうでなかったならいいんですけど…。」


蓮見は引き下がりそうになった。だが、彼の本能が何だか警報を鳴らしていた。


「いや…やっぱりあなたは人間ではない。夜琴…ではないですか?」


男はなおも笑っていたが、蓮見がじっと見つめているとやがて笑うのをやめ、スッと蓮見の顔を見た。


「すごいですね、先生。」


男はパチンと指をならした。するとそこには先ほどの男はなく、長い黒髪に赤い瞳の美しい男が立っていた。

「お前が…夜琴…。」

「驚いたな、蓮見先生。やはり普通の人間ではないだけある。その勘は少しばかり厄介だが。」

そう言ってこころの奥まで観察してくるようなその赤い目を、蓮見は恐ろしく感じた。

「それは…俺を消すと?」

そう蓮見が言うと、夜琴は声をたてて笑った。

「いや。今のところ、その予定はない。計画外の事をしたら、私が消され兼ねないからな。」

計画外という言葉に、蓮見はこの一連の事件がどうやら夜琴一人のものではないことに気づいた。
それに、話から推測するに、どうやら夜琴の奥にいる人物が黒幕のようだ。
もしかして、藤家が言っていた九尾の狐か?


「ああ、もうそんなところにまで行き着いてしまったのか。」


その言葉に蓮見はバッと顔をあげる。


「なぜ…考えていることが分かるかって?それは俺とお前の繋がりだ。」


夜琴はスッと、白く細い指を前に出し、蓮見の額に当てた。ビクリと蓮見の肩が震える。


「私は割とお前を気に入っている。真っ直ぐで…。」


夜琴は悲しそうに眉をひそめ、蓮見から一歩離れた。


「榊命…私も止められることなら止めたい。だが、もう私にはどうすることも出来ないのだ。」


そう言って肩を落とす姿に、蓮見は何故か懐かしさを感じた。


「夜琴…?」
「警告しておく。無事でいたいなら、あまり詮索するな。お前らがどう足掻こうと、どうすることもできない。」


そう言い切った夜琴は、どこかその言葉を自分にも言い聞かせているようだった。
自分達の敵のはずなのに、何故だか蓮見はこの男に痛々しさを感じ、憎みきれなかった。


「それでも、俺は、榊をどうやってでも守る。」


蓮見は夜琴の目を真っ直ぐ見つめていった。
夜琴は「そうか。」とぽつりともらし、儚く微笑むと、その姿はサッと消えてしまった。


「あいつは…。」


蓮見は夜琴のいた場所をしばらく見つめていたが、踵を返し、命たちのいる場所へと戻っていった。


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あきゅろす。
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