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命ーミコトー
10
気を失っている間、私はまた夢を見ていた。ミコトの巫女の、遠い記憶を…。

「おい!ミコト、待てよ!」
「遅いよ!早く早く!」


ミコトの巫女、陽さん、光さんらしい三人の姿が見えた。
なぜ「らしい」としているかというと、三人とも十二歳ぐらいの子供の姿だからだ。
でも、ミコトの巫女は私の小さい頃とよく似ているし、陽さんも光さんも面影があるので、そうだろう。


「今日は隣の山まで探検するんだから。」


ミコトの巫女は随分とはしゃいでいる。


「ミコちゃん、嬉しそうだね。今日初めて脱走成功したしね。」
「そうよ!次いつ抜け出せるか分からないんだから。だからね、普段絶対に行けないところに行こうと思って。」
「それで。『空狐山』へ?」
「そう!あそこには妖狐たちが住んでるんだって。」


ミコトの巫女は楽しそうに言う。



 『妖狐』
 

 何かの本で読んだことがある。妖狐にも色々とランクがあって、若い妖狐は尻尾は一つしかないんだけれど、段々ランクがあがるにつれて本数が増えていくとか。


 『天狐』は1000年以上生きた狐で神通力を持っていて、様々な出来事を見透かす能力があるとか。
『空狐』は更に2000年、3000年生きた狐だ。神通力を自在に操ることが出き、善狐だけがなれるとか…。


「ミコト…知らないのか?」


陽さんが立ち止まった。ミコトの巫女と光さんも立ち止まり、不思議そうに陽さんを見つめた。

「何を?」
「『空狐山』にいた狐の一族はこの間、みんな滅んだんだよ。」
「え!?何で!!」


ミコトの巫女は陽さんに駆け寄り肩をつかんだ。


「ここの狐が悪さをするから。」
「そんなはずないよ!だって『天狐』や『空狐』は善狐なのよ?悪いことするはずないじゃない!」
「だけど、妖狐も良いやつばかりじゃない。」


ミコトの巫女は押し黙った。ただ涙をいっぱい目にためている。


「でも…じゃあ、誰がそんなことを…?秋継は知っているの?」


秋継…?
陽さんの本当の名前だろうか。
陽さんは気まずそうに、視線を落とす。陽さんが言いたくないのだろうと察した光さんは、ミコトの巫女の肩をポンと叩いた。


「もしかしたら生き残っているやつがいるかもしれない。
きっと、そうだよ。じゃあ、今日はそれを探しに行こうか。」

その言葉に心ひかれたのか、ミコトの巫女は涙を袖でぬぐって大きく頷いた。
そうして三人は空狐山へ入っていったようだった。



次にパッと場面が変わった。空が赤く染まっている。三人が少し肩を落としながら、下山している。


「あーあ。見つからなかったね。」


ミコトの巫女がため息をつきながら言った。
どうやら、一日探してみても、妖狐の生き残りは見つけられなかったらしい。


「しょうがないよ。」


光さんがミコトの巫女の肩をポンポンと叩く。その時、カサッと草陰から物音がした。
三人とも一斉にそちらを見る。


「何か、いる…。」


ミコトの巫女はそう呟くやいなや物音がした方に走り出した。


「おい!ミコト!?」


陽さんと光さんも慌ててその後を追いかける。
道のない場所を走っていくうちに広い野原のような場所に出た。
ミコトの巫女はそこでふと、止まる。陽さんと光さんも追いついた。


「ミコト?」


ミコトの巫女は黙って指差した。その方向に一人の少女が倒れていた。
恐ろしいくらいに肌が白く、白磁色の長い髪の毛、瑠璃色の瞳をしていた。
その目はキッと三人の方へ向けられていて、憎悪の念を感じる。
白い着物には至る所に血がついていて、自身も足に怪我を負っているようだった。


「鬼…?」
「そんな低俗なものと一緒にしないで!」


目の前の女の子が叫んだ。見ると、白い尻尾が一本揺れている。


「人間めっ。」


吐き捨てるように女の子は言うと、顔をしかめ痛みに耐えながら立ち上がり去ろうとする。


「待って!」


光さんは女の子に駆け寄り、その腕を掴んだ。
女の子はビクッと体を震わし、その手を跳ね除けようとする。


「っ!離せ!」
「怪我してるだろう?」


光さんは瑠璃色の瞳をじっと見つめた。
女の子は催眠術にかけられたように全く動けなくなる。
少しして、光さんが離れると、女の子は大きく目を見開き、自分の足元に目をやった。
そして、ゆっくりと動かす。

「何を、した…。」
「僕の力だよ。人の傷を癒すことが出来るんだ。」


女の子は戸惑ったような表情で、一歩後ずさった。


「何故、どうして人間が、そんな事をするんだ。」


光さんはにっこり微笑んだ。


「僕たちは、君の敵じゃない。」


そう光さんが言うとミコトの巫女も女の子の方へ近づいた。

「私ね、あなたに会いたかったの。」
「私…に?殺しに来たのでなかったら、何をしに…?」
「友達になりたかったの。」


ミコトの巫女は女の子の方へ一歩近づき、抱きしめた。
女の子はビックリしたように固まっていた。
瑠璃色の瞳が大きく揺れている。


「友…だち…?」
「そう。だめ?」


ミコトの巫女は少し自分よりも背の低い女の子と視線を合わせた。
途端に女の子は顔を背けるが、尻尾は大きく揺れていた。


「私はミコト。さっきあなたを治してくれたのが四海。光ってみんなには呼ばれているけれど。
それで、後ろにいるのが秋継。陽ってみんなには呼ばれている。あなたは?」


女の子はミコトの巫女の体を押し返し、背中を向けた。
そして数歩歩くとまた立ち止まり、少し顔を赤くさせながら振り返った。


「瑠璃…。」


そう小さな声で言うと、女の子は狐になり走っていってしまった。


ミコトの巫女と光さんは嬉しそうな顔をしていたが、ただ一人、陽さんだけは複雑な顔で二人の背中を見ていた。



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