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命ーミコトー
9
藤家と蓮見は30分以上経っても命が帰ってこないので心配して探していた。
美嘉と有里は、もし帰ってきたときに誰かいないとまずいからそのまま待機していた。

「とりあえず、俺は人が多いほうを探してくる。」


そう言って蓮見は人が大勢いてにぎわっている方向へ探しに行ったが、藤家は反対に人のいない方へと探しに行った。


「榊…どこにいるんだ?」


岩がたくさんある所へついた。それでも、姿は見えない。


「もしかして、もっと奥か?」


普通これ以上奥へ行くはずもないのだが、なぜかその時藤家はそう思い、更に進んでいった。
しばらく行ったところに赤い水着を着た女の姿が見えた。命だ。
もう一人、小さい女の子がいるが…。



 ゾクッ




何ともいえない普通とは違うピリピリとした雰囲気があった。
それに、少女からは年不相応の殺気まで感じる。藤家は思わずさけんだ。


「榊!」


その言葉に命は少し泣きそうな顔で振り向く。
藤家が走りよろうとした瞬間、少女が信じられない力で命を放り投げた。
大きな水しぶきがあがり、命は海へと落ちる。そして藤家はさらに驚いた。
先ほどまで少女がいた場所に、白い着物を着て、白磁色の腰より下まである髪をなびかせ、黒い尻尾が九本ある女がそこに立っていたのだ。


「九尾の…狐。」


「あら、光ちゃんの後継者じゃない。確か、名前は、月音ちゃん?」


少しつりあがった目を細め、女は笑う。ゾッと寒気が全身に走った。


「お、前…」


怒りと恐ろしさで全身が震える。


「フフフ、色々お話したいところだけど、このまま放っとくと、この子死んじゃうわよ?」


藤家は、はっと我に立ち返り、急いで海へともぐった。
そしてゆっくり落ちていく命の腕をつかみ、抱き寄せて地上へと上がっていった。
しかし、そのときにはもう、あの女の姿はなかった。


藤家は命の頬はペチペチと軽く叩いた。


「榊!榊!」


しかし反応はない。しかも、水を大量に飲み込んでいるようだった。
藤家は命の胸をグッと押し、水を吐かせようとした。


「榊、悪い。」


そして、命の唇に触れ、人工呼吸をした。しばらく続けていると、


「ゲホッ、げホッ」


命が咳き込み、口から水が出てきた。苦しそうだが、全部出させなくてはいけない。
藤家は苦しむ命を押さえつけながらも続けた。
全部吐き出すと、命はぐったりとしていたが、少し目を開けると口の動きで「ありがとう」と言った。
それからフッとまた意識を失った。


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あきゅろす。
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