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命ーミコトー
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「ふぅ…今日の勉強タイム終了ー!」

私はパタンと問題集を閉じた。そして、机の端の方においていた携帯を手に取った。

昨日、蓮見は言った通り私の父に電話してくれた。私も蓮見に言われたとおりちゃんと一日に最低一時間半(父との話し合いで30分増えた)勉強することを約束として、携帯も返してもらい、自由がやってきた。
どうやら父親は自分が娘の携帯を没収したという事実自体を忘れていたようで、少々あせりながら私の携帯を探していた。
まあ、こうして今現在無事に手元に戻ってきたからよいものを、あの親父め…。

 ということで、この携帯は今朝見つかったばかりなのだ。
まだ一度も開いていない。
携帯を見てみると、有里からのメールが一件と、数えるのが恐ろしいほどの数の藤家からの着信があった。
とりあえず、藤家のは心の準備が出来てからにして、有里のメールを見た。
長々しい彼とののろけ話の後に、オマケのように今度一緒に海に行こうという誘いが書いてあった。
私は「海」という言葉に心引かれて、すぐに有里に電話した。

『もしもーし。』
「もしもし有里!?ゴメン、メール返せてなくて。実は父親に没収されててさ。」
『没収ー?何よー、それ。』


語尾を若干延ばす癖のある有里のゆるい話し方に、私はついつい笑ってしまった。

「で?海の話だけど。」
『そーそー。どう?命と美嘉と私の三人でど?ま、別に人数増やしてもいいけどー。』
「うん!いいね!私まだ今年夏らしいこと何もしてないから、行きたい!」
『あっ、そっか。おばかな命ちゃんは補習組みだったものねー。』
「美嘉と同じようなこといって…悪かったわね。」

有里はこんな頭が悪そうな話し方をする癖して、頭だけはいいのだ。
いつも学年十番以内に入っているし。

「で、海!いつ行く?」
『明日。』
「へ?」


予想外の決定事項に変な声が出てしまった。

「有里さん?明日、というのは随分急ですこと。」
『だってー。美嘉にはもう了承もらってるんだよ?それに明後日からは今度はパパたちとヨーロッパ行くからー。』
「よ、ヨーロッパ?」
『そー。避暑すんの、避暑ー。別荘あるし。』


この金持ちめ。軽い感じでヨーロッパとか、別荘とか。
避暑地の別荘といえば軽井沢だろうに…。それを、外国ですかい?

『なに、何か用事でもあるの?』
「いや、ないですけど。」
『じゃ、いいじゃない。明日に決定ねー。うちの車が迎えに行くから。』
「ああ、どうも毎回ありがとうございます。」


有里と遊びに行くと、もれなく長い車がお迎えに参上してくれるのだ。嬉しいのやら、困るのやら…。一般庶民の私と美嘉は正直ついていけない。


『じゃあ、また命の家の近くの人がいない薄気味悪い森の入り口らへんに迎えにいけばいいの?』
「あ、うん。そこでお願い。」
『もー、別に玄関まで迎えに行ってあげるのに。』
「いやいや、道せまいしさ。」


というか、家を見られたくないのだが。


『うちの運転手のドライブテクニックだったら大丈夫なのに…』
「はいはい。じゃあね?」
『ばいばーい』


私は盛大にため息をついた。こう感覚の違う人と久しぶりに話すと疲れるな。
同じ金持ちでも蓮見とは違うな。まあ、有里はそこが面白いからいいんだけど。


さて、本題はこっちだ。こっちが問題なのだ。私は意を決して、藤家に電話をかけた。


tul…

『もしもし?』


早…。

ワンコールも待たぬうちに藤家は電話に出た。そんなに今ヒマなのか?


「もしもし、藤家?ごめん、何度も電話くれてたみたいで。うちの父親に携帯没収されちゃっててさ。」
『そっか…。良かった。』


藤家がほっとしたような声をだした。どうやら何か心配させてしまったらしい。

「ごめん、心配かけて。」
『いや…』
「でさ、藤家何の用事で電話くれてたの?」
『……』

 藤家は少し黙り込んでしまった。

「藤家?」
『ああ……明日って、空いてる?』
「明日?」


明日はつい1分ほど前に有里と約束してしまったばっかりである。


「ごめん、明日は女友達三人で海行くことになってるから、空いてないや。」
『海!?』


ガタンッと電話の向こうで音がした。何かを落としてしまったようだ。

「あの、藤家、大丈夫?」
『ああ、問題ない。え、女だけで海に行くの?』
「うん、そうだけど。」

 それが一体どうしたのだろうか。

『危ない。』
「え?」
『危ないよ、榊。海は危険がいっぱいなんだよ。ナンパ目的の男だっていっぱいいるし。』
「大丈夫、二人とも彼氏もちだから。」
『そうじゃなくて!』


珍しく少し藤家は熱くなっている。

『分かった…。』
「え?」
『俺も、一緒に行く。』



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あきゅろす。
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