命ーミコトー
2
学校に着くと、美嘉は盛大にため息を漏らした。
どうやら今頃になって、本当に新藤先生のもとへ行くのが嫌になったらしい。
「美嘉、大丈夫?」
「本当に嫌なんだけど…。」
「そんなに嫌なら私もついて行こうか?どうせそんなに急ぐ用事でもないし。」
そういうと美嘉は目を輝かせて私の手を握り、ブンブンと首を縦に振った。
新藤先生は花壇にいるらしい。
そこで花の世話を自ら進んでやっているそうなのだ。
美嘉曰く、それも計算で、新藤先生は自分のプラスの印象になることしかしないらしい。
実際、私は新藤先生とは話したこともないし、あまり会うこともないので分からないのだけれど。
あまり人の悪口などは言わない美嘉がそこまで言う人が一体どんな人物であるかは少し興味があった。
「……いた。」
校舎の裏に回ってすぐのところに花壇があった。
私達はこっそり壁のところに張り付いて覗いた。そこに暑い夏に似合わず、さわやかに花に水をあげる新藤先生の姿があった。
ミニのスカートに白いシャツの襟元を大きくあけていて、何というか、教師らしからぬ格好である。
確かに、あれは狙っているのだろう。
「私、何だか少し分かったかも。」
「でしょう?でも何で今日は男子生徒もいないのに……。」
その時、もう一人いるのが見えた。
「え…?」
「ああ、そういうことね。今の新藤先生のターゲットはあれですか。」
そこには腕まくりをして、土をいじっている蓮見の姿があった。
「蓮見せんせぇ?この辺にしておきましょうか。」
間延びした猫なで声で蓮見に笑いかける新藤先生。
その姿に私は少し引きつる。
「そうですね。今日も暑いですからね。」
にこやかに額の汗をTシャツでぬぐいながら蓮見が立ち上がった。
すかさず新藤先生は清潔そうなタオルをどこからともなく出してくる。
蓮見はどうもありがどうございます、と軽く会釈してタオルを受け取った。
その姿をじっと見つめる新藤先生。
美嘉の言うとおり蓮見のことを新藤先生は狙っているらしい。
そう思うと、私は何だか心にもやもやしたものを感じた。何だか気分が悪い。
「新藤先生と蓮見か。まあ、年も近いし同じ数学教師だからな。」
新藤先生は私達が入学した年に新しく入ってきた先生で23歳。
蓮見より一つ年下の先生だ。
確かにこう見た感じお似合いな感じに見えなくもないが、私は何だか腑に落ちなかった。
「蓮見!」
気がついたら私は二人の方へ出て行っていた。
突然現れた私に二人とも目を丸くした。
「おっ、榊。どうしたんだ?」
蓮見はニカッと歯を見せて笑ったが、新藤先生は少し不満げに私を睨んでいるようだった。
その姿に女特有の恐ろしさを感じ、私はパッと目をそらした。
「いや、あの、藤家の家の住所を教えて貰えないかな、と思って…」
私がそう言うと蓮見は顔をしかめた。
「何のようでだ?それに藤家の連絡先知ってるんだから、直接聞けばいいだろうが。」
「いや、そうなんだけどさ…」
私は蓮見をちょっと、ちょっとと呼び、事の現状を話した。すると蓮見はうーん、と唸った。
「その状況は何かあったときに連絡が取れないから困るな。
分かった、俺が親父さんには話しといてやるから。」
「本当!?」
「ああ。でもだからと言って宿題しないとかはなしだぞ。
そもそもはお前の勉強への態度が悪いからそんなんだから言われるんだ。
一日最低一時間は集中して勉強しろ。
そうすりゃ親父さんも文句は言わないだろ。」
私は口を尖らせながら「はーい。」と言った。
蓮見が教師らしい、大人らしい最もな正論を言うもんだから…。
そんな私を見て蓮見はフッと笑い、大きな手でワシャワシャと撫でた。
「ちょっと!あんたその手でさっき土いじってたでしょうが!」
「何だ。そっから見てたのか、ストーカー。」
「誰がストーカーよ!」
私は蓮見の手を振り払った。蓮見は口を開けて笑っている。良く笑うやつだ。
「蓮見先生。」
その時、新藤先生が蓮見の腕にそっと触れて言った。
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