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命ーミコトー
1
 自分の家に戻ってから早3日が経ち、その間ミコトの巫女の記憶も見なければ、藤家とも蓮見とも連絡を取っていなかった。
あの忙しかった日とは打って変わってあまりにも平凡すぎることに、私は飽き飽きしていた。


連絡を取れないのは訳があるのだ。この、宿題だ。
宿題を朝、父親がここまでやれという課題を出して、それを終わらせることができなければ家から出させてもらえなければ、携帯さえ取り上げられているので誰にも連絡を取ることができないのだ。
しかも、その課題の量が半端ではないので一日で終わるわけもなくこの3日間こんな状態になってしまっているのだ。

「何で、いきなりこんなに厳しくなったのよ。」


私の父親は礼儀作法だとかそういうことにはうるさかったが、そこまで勉強のことは言っていなかったはずだ。
それがいきなり、3日前から勉強しろしろ言い出したのだ。


そこで、私はふと思い当たった。父のある一言を思い出したのだ。


『命、少しは月音君を見習え。お前と同い年なのにあんなにしっかりしていて、家のことも勉強のこともしっかりしていて……』


ああ、紛れもなくこれだ。


私は大きくため息をついて机に突っ伏した。


あの父親め、藤家と飲みにでもいったときに色々話して何か影響されてしまったみたいだ。藤家も、一体何を言ったんだか…。

「でもな、そうは言ってもこの状況を何とかしない限りはな…。」


私は机の上に山積みになっている宿題たちを睨んだ。

「命!」


下で母が呼んでいる声がして、私は部屋のドアを開けた。階段の下で母がバッグを持って立っていた。

「なあに?」
「一緒に買い物行かない?」

母は小さく手をこまねいている。とりあえず私は階段を下りた。すると母が私にこっそり耳打ちした。

「命もお父さんに部屋に閉じ込められて勉強していて飽き飽きしているでしょう?
気分転換に外でも出なさい。私の買い物の付き添いだということだったらあの人も文句は言わないと思うから。
家を出るまでは一緒で、その後は好きなところに行ってらっしゃい。」
「お母さん…。」

母は茶目っ気たっぷりにウィンクして見せた。

「あとね、これはお母さんからの提案なんだけど、あの課題を終わらせるのなんて一人じゃムリでしょう?
私ももう高校の勉強なんてこれっぽっちも覚えていないし。
だから、藤家君に手伝ってもらったらどうかしら?」


お父さんもそれなら喜ぶし、と後から母は付け足した。
そうだ。藤家さえいれば、あんな課題なんてちょちょいのちょいだ。
 

私は頷いて母と一緒に家を出た。
父は神主姿で少し疑ったように私のことを見ていたが、母の笑顔には逆らえない。
無事、家を脱出することができたのだ。


私は駅前で母と別れた。
とりあえず、藤家と連絡を取りたいのだが携帯に情報は全て入っているのでどうしようもない。


「蓮見なら分かるかな。」


今日は平日だし、もしかしたら学校にいるかもしれない。
とりあえず私は学校に向かうために、電車に乗り込んだ。
夏休みに補習以外で学校に行くのなんてはじめてだ。
中学のときも部活には入っていなかったので、学校に行くことなんてなかったし。
私は不思議と少しウキウキしつつ、見慣れた駅で降りた。

「あれ、命?」


声がした方を見ると、この地域にしては少し派手な女の子が目に入った。


「美嘉!」


友人の安池美嘉である。最も仲の良い友人の一人だ。
私は久しぶりに美嘉の姿を見て、嬉しくなって抱きつく。

「何よ、命!そんなに私に会えなくて寂しかったの?」
「うん!寂しかったよ。」

そう素直に言う私に美嘉は微笑み頭を撫でたが、すぐにここが駅だということに気づき、人目が恥ずかしかったのだろう、無理やり私を引き離した。

「旅行楽しかった?」
「楽しかったわよ。あんたは補習どうだったの?」
「頑張ったよ。それに、すごく頭良くなったんだから。美嘉にも勝てるよ。だって、藤家に教えてもらったんだからね。」
「えっ!?隣のクラスのあの藤家に?」


美嘉は目を丸くして驚いた。その反応に私は大満足で、ニッと笑う。


「あれ?でも美嘉学校に何の用事?」


そういうと美嘉は肩をすくめた。

「新藤先生に呼び出されたんだよね。」
「新藤先生に?何で?」


新藤先生とは数学の先生である。でも私のクラスの数学の担当は蓮見なので、新藤先生と美嘉は何の関係もないはず。
それなのに何で美嘉はその新藤先生に呼び出されたのだろうか。

「あれ?命知らないんだっけ?新藤先生って私のいとこなんだよね。」
「いとこ?」

 それは知らなかった。

「いとこなのに新藤先生とかって呼んでるの?」
「私、あの人とは昔からなんかそりが合わなくて、あのわざとナヨナヨしている感じが私にはムリというか…。」


確かに新藤先生は背が小さくて可愛らしい、女らしい先生だ。
男子生徒からの人気も高く、贔屓も激しい。
自分のことをよく分かっていてうまく利用しているように見える先生だ。私も少し苦手である。
それに対して美嘉はサバサバとした性格だから…。

「うん。納得した。」
「でしょう?」


私達はクスクス笑いながら学校へと歩いていった。


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