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命ーミコトー
20
私は待ち合わせのあの大きな岩のところへ腰かけて、あの人のことを待っていた。

最近なかなか会うことができない。
いつもは抜け出す手助けをしてくれていた狛の二人が、最近反対に妨害にまわっているのだ。
私たちが遊びにいくからいいだろう、て。
でも、私は村のみんなの普通に暮らしている姿が見たいのだ。

それに、あの人にも会いたい。

「というか、そもそもあっちが私の所に来てくれればいいんじゃない。
いつも私ばかりが苦労して抜け出して会いに行って…。」

その時、向こうからかけてくる者の姿が見えた。
私はスクッと立ち上がり腕を組み、仁王立ちで出迎える。

「悪い、ミコト。遅くなった。」

私は無言で睨んだ。
だが、あまりにも落ち込んで可哀想だったため、しょうがないので許してやることにした。

「全く、夜琴は…」

大方、世話になっているものにちょっかいを出されていたのだろう。
あの人は随分性格が面倒くさい女だから。ていうか、正確には人間じゃないのだけど。

「ん?」

私は夜琴が手に持っているものに気づいた。

「花…?」

野で摘んできたのだろう。
色とりどりの花々がその手には揺れていた。

「女は花をもらうのが好きなんだろう?」

毒気のない顔で笑いながら、夜琴は私に根っこつきの花束を手渡した。
夜琴の冷たい手が私の手に触れる。

「それ、あの人が言っていたの?」
「ああ。それで花を摘んでたら遅くなって、悪いな。」

全くこの男は純粋すぎるというか。
でも、まあ、しょうがないだろう。
一見大人でも、この世で過ごした期間はまだ小さい子供と同じくらいなのだから。
この人が今まで向こうでどう過ごしたかなんて、私には想像できないけれど。

「ありがとう。」

私は不器用な花束を見つめてポツリと言って夜琴の顔をみた。

私が無理矢理ここに留まらせてしまっているけれど、本当にこれでいいのだろうか。
私のせいでこの人は、皆から気味悪がられ、避けられている。
私には巫女という立場と狛という守ってくれるべき後ろ楯があるけれど、この人には私しかいないのだ。
静かに頬に涙が流れるのを感じた。
夜琴は慌てたように私の肩を掴んだ。

「ミコト。何で泣いているんだ?この花のせいか?
もしかしてあの女、嘘をついたのか。喜ぶどころか、悲しんでいるじゃないか。」

 そう言う夜琴に私は首を振った。

「違うの、夜琴。嬉しくてもね、涙は出るの。だから、これは嬉し涙なの。」
「じゃあ、お前はその花が嬉しくて泣いているのか?」
「そう。嬉しいの。」

 あなたはもしかしたら、ここにいるのが辛くなるかもしれない。
だけど、私はもうあなたがいないと生きていけないでしょう。
だから、――として私のわがままに付き合ってね。ごめんなさい。ありがとう。

「じゃあ、これから私はお前にたくさんの花を贈ってやるからな。」

 夜琴の微笑む顔がどんどん遠くなり、視界は真っ暗になった。


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あきゅろす。
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