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命ーミコトー
19
しばらく沈黙が続いた。
先ほどは気まずい感じがあったりなんかしたのだが、何だかこの沈黙が少し心地よく感じる。
どうしてこんなに感じ方が違うのかはたいそう不思議だが、何故か今夜はコロコロと心地が変わるのだ。
ふと、視線を感じ、蓮見の顔を見上げると蓮見は私に向かって微笑んでいた。

「な、何?」
「いや、お前出て行っちゃうんだな、っと思って。」

 その言葉に私は少し笑ってしまった。
何だかそのセリフだと、同棲中の恋人なんかが離れて暮らすことにする、みたいな感じを受けたのだ。
蓮見も自分の言い方が変なことに気づいたのか、少し照れたように頭をかきながら言葉を続けた。

「いや、お前たちがいたのは、ほんの一週間だったはずなのに、何でかな、随分一緒にいたような感じがして。少し寂しくなるな、と思ったんだ。」
「そうだね。蓮見の家、居心地良かったから。」

 確かに短い間だったけど、何だか蓮見の言うとおり、本当にずっと一緒にいたような、そんな感じだ。
特に今日は色々起きて、一気に一週間ぐらい過ぎた感じだ。

「ちょっとだけ、寂しいかもね。」

 私がポツリとつぶやくと、蓮見は大きな手で私の頭をワシワシとかきまわした。

「ちょ、ちょっと!」
「んな風にいうなよ。別にいつでも遊びに来ればいいだろ、な?」

 ニカッと笑う蓮見。確かにそのとおりだ。私はコクンと頷いた。

「でも、他のやつらには秘密にしろよ。大勢でおしかけられたら困るし、さすがに親からクレームくるから。」
「分かってるよ。」

 蓮見は、絶対早く家探してやる、とぶつくさ言っていた。
私はその姿を横から見て、ついつい口元が綻んでしまった。
なぜだろうか。こうやって過ごしているうちに、蓮見が教師であり、担任でもあることを忘れてしまいそうだ。
私はフーッと息をついて、頭をベッドに倒した。
さすが坊っちゃんのベッドなので、頭が沈んで気持ちがよい。
力がふっと抜けていった。

「何だ?眠くなったのか?」

蓮見が私の肩をポンポンと少し叩いた。
そう言われた途端、何だか一気に眠気が襲ってきた。
催眠術にかけられたようにまぶたが重く感じ、目が開けられなくなってくる。
どうやら昼間の疲れがリラックスした途端にドッと押し寄せてきたようだった。

「んー…」

 私は目をつぶったまま、生返事をした。蓮見は私の体をゆさぶる。

「おい、寝るなら自分の部屋で寝ろよ。せっかく貸してやってんだから。」

私は眠気を妨げる蓮見の腕にいらつき、払いのけた。
どうやら本気で眠くなったようだ。
眠気って急に一気に訪れるものだ。
今、それに抵抗する元気も気力も残っていなく、欲望に忠実になっている。
私はボーッとしたまま立ち上がった。


「そうだ、そのまま自分の部屋に…。」


行かずに私はすぐそばにあるフカフカのベッドへと身を投げた。
弾むベッドの心地よさに、無意識に微笑む。

「おい、榊。そこ、俺のベッドだから。」

 蓮見はそう言って私の頭を少し軽く叩いたが、私はもう寝ることしか頭になく、顔をしかめるだけだった。
蓮見はしばらく私を起こそうと躍起になっていたが、全く起きる気配がないので、とうとう諦めてベッドの端に頭をゴロリと乗せた。
 

「まったく、酒も飲んでねえのに、酔ってんじゃないんだから。何でったっていきなりそんなに…。」

 そんなこと、私はもう全く聞いていなかった。ぐっすり蓮見のベッドで熟睡中である。

「はあ。」

 蓮見は頭をかかえながらため息をつくと、私を横目でチラリと見て困ったように微笑んだ。
そしてそっと私に手を伸ばし、頭を優しく撫でる。

「早く、お前も大人になれよな。」

私はムニャムニャと夢の中で返事をした。そんな私を蓮見はクッと笑った。

「やっぱり、お前はそのままでいろよ。」

そうして蓮見は立ち上がると、静かに部屋を出ていった。



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あきゅろす。
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