[携帯モード] [URL送信]

命ーミコトー
18
まあ、そういったことがあって、私は蓮見と二人っきりで部屋にいるのだった。
二人きりになるというのは久しぶりで、変な話少し照れくさく感じてしまう。

「ほらよ。」

 そう言って蓮見は部屋にある小さな冷蔵庫からアイスを二つ取り出して、そのうちの一つを私に渡した。

「あ、ありがと。」

 蓮見はビリっと袋を開けながら、私と背中合わせで座った。
軽く触れている部分が熱く感じるのは、蓮見の体温が高いからだろうか、それとも私が変に意識しているからだろうか。
何だかある種の居心地の悪さを少し感じつつ、私はアイスにかぶりついた。
夏の夜の少し涼しい風を浴びながら食べるアイスは、暑い昼間に食べるものよりも贅沢に感じる。

「藤家はさ。」
「え?」

 急に話始めた蓮見の顔を振り返ってみてみると、ひどく真面目な顔をしていた。

「藤家…?」
「ああ。あいつ、父親がいないらしいんだ。」
「お父さんが…いない?」
「ああ、詳しくは知らないが、なかなか複雑な環境で育ったみたいだぞ。
だから、父親に甘えたことがないんだろう。
そういう存在にあこがれているのかもしれないな。」

 私は蓮見が言いたいことが何となく分かった。

「うん。私の父親なんかでよかったら…。というか、別に嫌じゃないし。」

 すると、蓮見はビックリしたような顔でバッと私の顔を見た。
私は蓮見が何でそんな顔をするのかはじめ分からなかったが、すぐにピンと来た。

「違う違う!その、別に婿のことが嫌じゃなくて、父親を藤家に貸すのが、というか、貸すっていうのはおかしいし、上から目線だけど…」

 手を横にブンブンと振って、支離滅裂なことを言いながら必死に否定する私の様子を見て、蓮見はフッと分かった。

「嘘だよ。分かってるよ。お前にそういう話はまだ早いもんな。」

 馬鹿にしたように話す蓮見を私はキッと睨み、背中を思い切りぶつけてやった。
痛えな、とケラケラ笑う蓮見を見て私はおおげさにため息をついた。

「でも、藤家ちゃんと否定してくれるかな?あのまま本当にゴリ押しで婿にされちゃいそうな勢いだもん。」
「ああ、流石にそれは…。」

 蓮見は黙り込んだ。どうやら完全否定はできなかったようだ。
私の父親の強引さは、少し藤家にも共通する部分があるかもしれない。
だから、あの二人は気が合うんだろうか。
二人ともあまりすぐに人と打ち解けられるタイプではないのに、会って数時間であの仲の良さだ。
どちらかというと、藤家のほうが私の父親の息子みたいだ。
そんな風に考えて、私は少し笑ってしまった。


「蓮見のお父さんはどんな人なの?」
「俺の親父?」

 私は背中合わせの会話は疲れるので、蓮見の横にまわった。
ベッドを背もたれにして、隣り合わせに座る。

「だって、蓮見の家族って1週間くらいここにおいてもらったけど、一度も見たことないし。」
「ああ、俺は一応実家にいるっちゃあいるけど、敷地だけだし、全然付き合いないしな。」
「仲…悪いの?」

 私がおずおずと聞くと、蓮見は肩をすくめた。

「うーん。いや、良いわけじゃないけど、別に普通じゃないか。
お前の父親は本当に娘思いだと思うよ。あんなに全力でぶつかってくれる親、大事にしろよ。」

 ポンポン、と大きな手が私の頭を叩いた。私は蓮見の顔をじっと見つめ、小さく頷いた。
何だか少し寂しそうな表情に見えたのだ。

蓮見も何か色々あるのかな。

そう思ったが、口には出さず、心の中にそっと閉じ込めておいた。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!