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命ーミコトー
17
現在、私は蓮見と二人部屋の中にいる。窓からの月光が部屋を照らしている。
なぜ、こんな状況になったかといえば、もちろん我が父のせいである。


「命、月音君に免じて、お前の勘当は取り消してやることにした。」
「本当!?その、藤家に免じてって言うのは全く持って意味が分からないけど、でも、よかった。じゃあ、もう家に帰れるってこと?」
「ああ、いいぞ。」
「良かったな、榊。」

 蓮見が肩をポンポンと叩いた。私は見上げ、微笑んだ。

「うん!今まで置いてもらっててごめんね。ありがとね、蓮見。」

すると、父のわざとらしく咳払いする声が聞こえてきた。
何がしたいんだ、この親父は。

「だがな、明日な。」
「は?」

 私は今すぐ父と一緒に帰れるものだろうと思っていたから、拍子抜けしてしまった。

「え?何で明日なの?もう取り消しされたんだから部屋に戻っていいでしょう?」
「いや…実は、少しイライラしてたからお前の部屋のものを…」
「ちょっと!捨てたの!?」
「いや、捨ててはない。断じて捨ててはないんだが…。
ちょっと、今日お前が男のところに入り込んでいると知って、少々イラついてな。
足が踏み入れられなくて、見せられない状態になっていて。」

 いったいどういう状態なんだ?
要するに私の部屋で暴れまわったのだろう。
考えるだけでもため息が出てくる。

「何?お父さんが片付けるの?」
「いや、蘭子が…お前の母親が片付けてくれて…。」
「はあ?何でお父さんが片付けないの?」
「うるさい!私が手伝ったらかえって邪魔だから放っておけ、とあいつが言ったんだ。」

 お母さん…。あの人はボーっとしてそうに見えて、人の何倍もすばやく動けるから。
それに比べてこの父は、体格のとおり、がさつで、大雑把で、基本適当なので、確かに足を引っ張るだろう。

「いや、それなら余計に私帰らなくちゃ。お母さんだけに任せられないし。何より私の部屋なわけだから、私に責任があるんだし。」
「いや、母さんいわく、お前も邪魔になるからいらない、と。」
「あ、そうですか。」

 確かに私も性格は父に似て細かい作業とかできないし、きれい好きでもないけれど。

「それにな!」
 
 ニコニコと父は笑っている。非常に彼に似合わない笑い方なので、ゾッとしてしまう。
そして、父は藤家の肩に腕をまわした。

「未来の息子と親睦を深めるために飲みに行ってくるから!」

 意味が分からない。
思わず蓮見と顔を見合わせてしまう。

「未来の…息子…?」

 完全にそれは決定事項になってしまったような言い方だ。
私は、ちょっとちょっと、と藤家の腕を引っ張り父から引き離し、ヒソヒソ声で抗議を始めた。

「ちょっと藤家!どんどん話が膨らんでいって、どうにかしてくれるんじゃなかったわけ?」

 すると、藤家は困ったように眉を下げ、肩をあげた。

「いや、榊のお父さんがあまりに嬉しそうだから、言えなくて…。」
「でも、このままだと本当にお父さん信じちゃうよ?どうするの?私なんかと勘違いされて嫌でしょう?」

 そう私が聞くと、藤家はじっと私の顔を見て、目を細めた。

「いや。別に嫌ではないよ。」

 サラッと言ってのける藤家に、ため息が出てしまう。
本気で言っているのか、冗談で言っているのか、本当に分からないで言っているのか、この人は表情があまり変わらないから読み取れないのだ。
この短期間の間で何度も振り回されたので、藤家の言うことは話半分で聞くようにしているが、でも少し顔が赤くなってしまう。

「それに、俺、榊のお父さん好きだし。」

 ニッコリ、と笑う藤家は、何だか本当に嬉しそうだった。
私の父親なんかと話して、何が面白いのか全く分からないけれど。

「まあ、でも後で様子を見て、ちゃんと話しておくよ。」
「うん。」
「まだ俺の片思いなんですって。」
「は?」

 私が口を開けて藤家を見上げると、藤家はプッと噴出した。
どうやらこれは冗談で言ったらしい。

「藤家!」

 藤家は珍しく声を出して笑いながら、父と一緒に出かけていってしまった。


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あきゅろす。
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