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命ーミコトー
4
―――一時間経過……

…え?本気で分かんないんだけど。

 命は呆然と問題を見つめていた。もはやシャーペンは手から離れている。

三角関数…さいん、こさいん、たんじぇんと……

 清清しいほどの分からなさに笑いしか出てこない。いや、笑えないって。授業中何してたんだ、私。

 不安になって周りをきょろきょろと見回すが、みんなも同じように手が止まっている。
良かった、とりあえず一人ではない。
だいたい、ここに来ている人なんてこんなもんだよね。
そんな短時間で終われるはずがな…


ガタンッ


後ろでイスが引かれる音がした。
藤家がスッと立ち上がり、プリントを持ってツカツカと教卓に歩み寄る。


…え?え?


 藤家は蓮見が行儀悪く足を乗せている教卓の上にプリントをばさりと置いた。


「なんだ藤家、もう終わったか?」

 蓮見はそろそろと足を下ろすと、胸に挿した赤ペンを手に取り採点を始める。
そしてうーん、と唸りながらもプリントを藤家にへと返した。


「ミスなし。全問正解」

 さも当然だと言わんばかりに藤家は受け取った。

「しっかし、分かんねェな。何でお前こんな所来てんだ?」

 藤家は面倒くさそうに視線を窓の外へと移しながら呟いた。

「寝坊」
「は?」
「寝坊して数学の時間に遅刻して受けれなかった」

 さすがの蓮見も言葉が出ないようで、苦笑をもらしつつ頭をかいた。
と、その視線が命に移り目が合う。その目がニヤリと細まった。
絶対ろくなことを考えていない。
蓮見は藤家をちょいちょい、と手招きで呼び寄せた。


「おい、藤家。お前どうせこの後暇だろう?」
「俺が暇だとどうして決めつけるんですか」
「何だ、用事あるのか」
「…今日はないですけど」
「そうか、そりゃ良かった。いやな、一人どうしようもない奴がいるんだ。
そいつに数学を教えてやってほしい。この様子じゃ午前中に終わらせてくれなさそうでな。
俺の貴重なランチタイムが無くなっちまうだろう?な、頼む。」


 ヘラヘラとまるで誠意を感じさせない頼みっぷりだ。

「この中で一番ダメな奴ですか」
「ああ、そうだ。てんでダメダメだ。お前の前の席に座ってた榊って奴なんだが」
「は?私!?」

 全然人事で聞き流していたのに。それにしても、藤家からの目線が痛い。
その、面倒ごとに巻き込みやがって、この野郎的な…。
いや、私だって不本意だってば!


「何で俺が…。先生が教えてやればいいんじゃ」
「俺はみんなの先生だから。一人の生徒を贔屓したらみんなが悲しむだろう?」
「そんなの知りませんよ」

 ピシャリと言い放つ藤家。いつも思っていることだが、蓮見のああいうナルシスト発言は本気なのか冗談なのかたまに分からなくなってくる。

「とりあえず、はい、頼んだ!拒否権なし!頼みましたー」

 藤家の代わりに私が言ってやろう。小学生か、お前は!

 親の敵のような目で見つめてくる藤家ももちろんだが、それよりも女子からの嫉妬の目が私は怖い。

 命は己の寿命が縮まるのを感じだ


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あきゅろす。
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