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命ーミコトー
14
陽さんは私の顔を見た。
なぜだか瞳が揺れていて、動揺しているように見えた。
その目はじっと私を見据えている。

『ヒナちゃんったら、いくら命ちゃんがミコちゃんにそっくりだからって緊張しすぎ。』

 光さんにバシバシと背中を叩かれると、ああ、と小さく言って視線をそらした。

『私もヒナちゃんもミコちゃんに惚れていたからね。まあ、しょうがないか。』

 ケラケラ笑う光さんを陽さんは無言で殴った。陽さんは唇をかみしめていた。
やっぱり、まだミコトの巫女のことが忘れられないのだろう。少し辛そうな表情をしていた。

「あの、光さん、陽さん。今、私たちの身に何が起こっているか分かりますか?」

 そう聞くと、陽さんが辺りを見渡して答えた。

『ああ、何だか嫌な気を感じるからな。あの時のあいつが出てきたんだろう。』
「あの時って、ミコトの巫女が…その…。」
『ああ、命、そのとおりだ。あいつが死んだときに封印したものだ。』
「私…ごめんなさい!私のせいなんです。」

 私が頭を下げると、陽さんは優しく笑って私の頭をポンポンと叩いた。

『いや、命のせいじゃない。時が、来たんだ。』
「時…?」
『そう、このときを待っていた。』
「え…?」

 そう言う陽さんはどこか遠くを見つめていた。

『大丈夫だよ、命ちゃん。私たちも手を貸すから、ね。』

 光さんが陽さんの肩に手を回しながら言った。私は小さく頷いた。

「あの…ミコトの巫女ってどういう人だったんですか。」

私がそう聞くと、陽さんは微笑んだ。遠い昔の記憶を呼び起こすように。

『ミコトは…、うん、おもしろいやつだった。』
「おもしろい?」
『ああ、その本を読んだか?』

私は頷いた。

『その本…私が書いたんだ。』
「えっ!?陽さんが?」

三人ともビックリしていた。

『そうそう。ヒナちゃん結構文才があったからね。
村長に今の国の状況を書き記してくれるように頼まれていたんだ。
私たちの魂の半分を、何かあったときの未来に残しておこうと言ったのもヒナちゃんでね。』
『そこにはミコトは随分おとなしい感じに書かれているが、本当は全然違うぞ。ミコトに命令されたからそう書いただけで…。
実際、ミコトは力が強すぎるから、あまり外に出歩いてはいけないことになってたんだが。
だが、あいつは見張りの目を欺いてはよく町に遊びにいっていた。
自分の力を封印するためのものを作ってな。』

すると陽さんは机の上に置いてあるものに目をとめた。驚いたように眉が上がる。
机に置いてあるのは、藤家がいつも足につけている紐のようなものだ。不思議にあれをつけていると藤家の藤色の瞳は抑えられるのだ。

『それは…』
「それ、俺のですけど。」
『少し見せてくれないか?』

藤家がそれを手渡すと、陽さんはじっくりとそれを見た。そして納得がいったように頷いた。

『これだ。まさにこれだよ。ミコトがいつも身につけていたものは。』
「これが…?」

 それを聞いて一番驚いているようだったのは藤家だった。陽さんからそれを返してもらうと、不思議そうに眺めていた。

「藤家、それどうしたの?どうして藤家がミコトの巫女の物を持っているの?」
「これは…俺の瞳を見て、おばあさまが下さったもの…。うちの家宝のようなものだって…。」

 すると光さんが「あっ」と小さく声をもらした。みんな一斉に光さんの方を向く。

『思い出した。あれは、ミコちゃんが死ぬ2ヶ月くらい前だったかな。ある町の子にあげたんだ。』
『あげた!?』

 陽さんはビックリしたように聞いた。どうやら初耳らしい。

『ヒナちゃんはその時いなかったかな?町の踊り子の女の子で、病気にかかっている子がいてね。でも家族のために働き続けなければいけなくて。

ミコちゃんはそれを放っておくことができなくて、自分の力が込められているそれを、その少女にあげたんだ。
もしかしたら、それが桔梗ちゃんの遠い先祖かもしれないね。』

藤家は少し照れ臭そうにしながらも、大切そうに再び足に結んだ。

「でも、やっぱりミコトの巫女の力ですかね。随分状態が綺麗ですね。」

私は藤家の足に結ばれたそれを見て言った。やはりそれだけミコトの巫女の力は強かったのだろう。


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あきゅろす。
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