命ーミコトー
13
美しい声が部屋に響き渡ったかと思うと、ますます本の光は強まり、私たちは思わず目をつぶった。
再び目を開くと、そこには一人の美しい男の人が座っていた。
黒い髪を個性的に束ね、愉快そうにこちらの様子を見ている。
細めた目は、どことなく藤家と似ているような気がした。
『なんだ、男か。残念だな。きれいな顔をしているのに、もったいない』
その言葉にピクリと藤家の眉が動く。
どちらかといえば女性風な自分の顔を気にしているようだ。だが、平然を装って藤家は言った。
「ずっと、俺の中にいたのはお前か。」
『いたといっても、ずっと眠っていたからね。さっき起きたばかりだ。
だから心配しなくていいよ。桔梗の知られたくないところとか、見られたくないところとかバラしたりする心配はないし。」
にこりと男が微笑む。それを見て藤家は心底嫌そうな顔をした。
それはそうだろう。どちらかといえば、というか完全に藤家の苦手なタイプだ。
「藤家、これってどういうことなの?」
私が藤家の肩を叩きながら聞くと、その男の人が私に目を向けた。
驚いたように目を見開くと、その目を細め私に向かって微笑んだ。
『はじめまして。君がミコちゃん二世かな?やっぱりよく似ているね。』
「ミコちゃん?それって、ミコトの巫女のこと?知り合いなの?」
すると男の人は嬉しそうに頷いた。
そして前髪をかきあげた。左の額には勾玉形の痣があった。
「じゃ、じゃあ、あなたがこの本に書かれていた…?」
男は私の手をとってひざまずいた。
『私が梁慶の時代の影の狛。皆からは光の君と呼ばれていた。光と呼んでくれていいよ。』
「光…さん?」
私がおずおずと呼ぶと、光さんはにっこりと笑った。
そして私のそばに近寄ると、耳に顔を寄せて囁いた。
『実のところね、かの有名な光源氏っていうのは私の生まれ変わりなんだ。』
「うそ!光源氏が!?」
私がそう叫ぶと、蓮見が私の頭を叩いた。
「馬鹿。嘘に決まってるだろう。あれはフィクションだ。」
確かにそうだ。でも、私の抱いている光源氏像と光さんがばっちりマッチしていたのだ。
見るからに女タラシのプレイボーイそうだ。藤家をオープンにした感じだ。
「藤家、どうしてお前ミコトの巫女の狛である光さんを呼び出せたんだ?」
蓮見が不思議そうに藤家に聞いた。私もそれは気になる。藤家は本を手に取った。
「ここ。」
そう言って藤家はほんの裏表紙をトントンと叩いて示した。
そこには文字が書いてあったが、にょろにょろした昔の字なので、読めない。
「何て書いてあるの?」
「……狛の瞳を持つもの、狛の血を継ぐもの、血を持って我らは甦らん」
そう言って藤家は切った指を出した。ああ、だからそんなことをしたのか…。
『さすが私の後継者だね、桔梗。』
「あの…。」
蓮見がおずおずと手をあげた。
『何だい?』
「さっきから、藤家のこと桔梗って呼んでるけど、こいつの名前月音だろう?」
「ああ、蓮見は知らないんだ。藤家って家関係の名前があって、それが桔梗なんだよ。」
「何だ、榊は知ってたのか。」
『桔梗って良い名前だよね。さすが美しい私の後継者。』
ニヤニヤ笑う光さんを、藤家はキッと睨みつけた。
『ねえ、陽杜くん?』
「はい、何ですか。」
『私、ヒナちゃんにも会いたいんだけど。』
「ヒナちゃん?」
蓮見が首をかしげた。
『君の中にいる、私の相棒だよ。』
ゲッという顔を蓮見がして逃げ腰になったが、それよりも早く藤家がカッターの刃を出して、蓮見の手を掴むと指を傷つけた。
「痛っ!おい、藤家、お前やっぱり俺に何か恨みが…。」
蓮見の指から血が流れ、今度は白い陰陽の方へ落ちた。
本が今度は赤く燃えるような光に包まれたかと思うと、そこには一人の男の人がいた。
見ると、蓮見の瞳が黒くなっている。
男は少しボサボサの髪を無造作に後ろで一つに束ねている。
力強い顔立ちは、少しだけ蓮見に似ているかもしれない。
右の額には勾玉の痣が見えていた。
『はじめまして。私が梁慶の光の狛。陽(ヒナタ)の君と呼ばれていました。』
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