命ーミコトー
2
蓮見の部屋へ向かう途中。蓮見は、使用人のおじさんのような人を途中で捕まえた。
「今日、親父とお袋は?」
「今日、だんな様と奥様は、町の方に出て行かれてまして、夜は遅くなるかと。」
「そうか。奥の俺のところには、誰も通さないように。」
「分かりました。」
そんな風に命令する蓮見は、学校での姿と全く違っていて、本当に坊ちゃんのようだった。
というか、事実そうなんだけど…。その姿は、年相応にやはり大人びて見えた。
私たちは、本館?からすぐ出て、庭を通ってはなれのような所に着いた。
「蓮見の部屋って、この中にあるの?」
「いや、このはなれ全部俺の部屋だけど。」
しれっと言ってのける蓮見にぎょっとした。この人、普通に言うことじゃないだろう。
私の家は神社を経営しているが、もちろん半分廃れているので全く儲からない。
結構神社の仕事も雑用というか、内職のようなものがあるので、地味に大変なのだが。
だから、蓮見の言う部屋であるこのはなれが、私の家全部の広さだと思う。
中に入ると、和風の外観と全く違って、フローリングの洋風な造りになっていた。
だから、何だかそのギャップで非常にあり、入った瞬間変な感じがする。
だったら、いっそのこと全部洋風にすれば良かったのに。そう蓮見に言ったら…
「口うるさいばばあが、伝統的な我が家の雰囲気を破壊するものは止めなさいとか何とかで、せめてもの抵抗がこの現状だ。」
と、口をとんがらせながら、蓮見は言った。
「まあ、そこらへんに適当に座ってくれ。」
私は蓮見のプライベートルームとやらに通された。
本当にはなれは、一軒の家のようだった。
大きな部屋(プライベートルーム)が一つと(実際、蓮見はこの部屋しか使っていないらしい)、客間のような部屋が二、三あった。
蓮見の部屋は物がスペースの割りに少なかった。
私のイメージでは、物が溢れかえって汚いイメージだったのだが、これでは私の部屋の方が汚そうだ。
帰ったら掃除しよう…、そんなどうでもいいことを考えてしまった。
蓮見は自分のベッドに腰かけ、私と藤家は床に座った。
先ほどまで一言も発していなかった藤家が、いきなり話し始めた。
「この際、みんな正直に話して、隠し事は無しにしましょうか。」
すると蓮見はフッと笑った。
「お前、性急過ぎるだろう。まあ、でもお前の言うとおりだ。
多分、俺たちは同じような秘密を抱いてこれまで生きてきただろう。
たとえば……瞳の色…とか。」
藤家はバッと蓮見を見た。
「そうか…先生も、榊も、か。」
私と蓮見はコンタクトをはずした。それぞれの本当の瞳の色が露になる。
藤家はじっと私たちの目を見つめていたがが、ふいに制服のズボンの裾をあげた。
そこには、ミサンガのようなものがくくりつけられていた。
「藤家?それは…。」
藤家は俯くと、器用な手つきで、きつく結ばれたその紐を解いた。
再び藤家が顔を上げたとき、その瞳の色は変わっていた。
「綺麗…。」
思わず私はそう呟いた。藤家は目を細めた。
「本当、綺麗な紫色だな。」
「藤色です。」
藤家はキッと蓮見を睨んだ。
「何か、お前俺には冷たくないか?」
「気のせいです。」
藤家はツン、と顔を背けながら言った。
その間も、私は藤家の瞳をじっと見続けていた。透き通る藤色。
最近、カラコンとかが出回っていて、紫色のものもあるそうだが、そんなものとはぜんぜん違う。
何てったって、天然物なのだ。
深い色合いで、光の具合によって淡かったり、濃かったりと。私はついつい魅入られてしまった。
「不思議…。三人とも瞳の色に秘密があったなんて…。こんな偶然…」
「いや、偶然じゃないだろう。」
「え?」
そう言った蓮見の顔を真剣そのものだった。
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