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命ーミコトー
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「それは榊、お前がアホだからだ」

 勢いよく後頭部をプリントの束で叩かれる。

「いって!ちょっと!脳が壊れでもしたらどうしてくれるんですか!」

 叩かれた本人、榊 命は殴られた部分を手でさすりつつ、恨めしそうに後ろを振り返った。ニヤニヤ笑いでプリントの束を肩に担ぐ男が立っていた。

「ああ、スマンスマン。唯でさえ残念な脳みそなのに、これ以上壊れてしまったら…」
「残念言うな!手を合わすな!だいたい、私の脳みそは天才的に素晴らしいんだから」

 男は哀れんだ目を向け、大きくため息をついてきた。地味に心が痛い。

「俺だってなァ、本当は夏休みなのに授業なんてしたくねェんだよ。でもな、どこかの誰かさんみたいにかわいそうな子がいるせいで、この誉れ高き先生様は勉強を教えて差し上げなければならん。」

 嫌味ったらしい奴め、と命は男を見上げた。確かに夏休み前の中間テストで赤点取りましたよ。ええ、数学で赤点を!でも、補習に来ているのは私だけじゃないのに…!

「そんなんだから彼女できないんだ…。」
「ああ?おい榊、今何か言ったか?」
「いいえ、とんでもございません!さあ、早く私どもに勉学を教えてくだされ。そしてこんなつまらないものをとっとと終わらせてくださいまし。」
「それは俺のセリフだ!」

 また叩かれた。暴力反対だ。PTAに言いつけてくれるぞ。

 先ほどから口を開けば嫌味が流れ落ちてくるこの男の名は蓮見楊杜。高校数学教師であり、命の担任でもある。歳は二十五と若く、一見してもしなくても大学生に見える。日焼けした肌はその上背のある姿にとてもあっており、女性徒からの人気は壮絶である。

 なぜこんなガサツな男がそんなにもてるのだろうか…。確かに男前ではあるが。

 命がじっと蓮見の顔を見つめているとふと目があった。蓮見はその口元をニヤリと歪ませる。

「何だ榊、俺様の美しさに見惚れているのか?」

 顎に手を当てて、それは自分的に格好いいポーズのつもりなのだろうか。命にはただ痛い子にしか見えない。



「一度自分の顔を鏡でご覧になってはいかがですか。」

 周りの他の生徒にも笑われ、蓮見はいじけたように頬を膨らませプリントを配り始めた。その顔でその行動をしても可愛くなく、ただ気持ちが悪いだけなのだが。


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