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命ーミコトー
17
――『ミコト!はい、今日の花!』

『今日は何の花なの?わっ、曼珠沙華?』

『ミコトの瞳みたいに真っ赤で綺麗だったから。』

『でもちょっとこの花贈り物としてはどうなのよ。』

『どうして?素敵じゃないか。
仏教では天上の花≠チて意味もあるんだろう?』

『仏教って…うちは神道だってのに。でも、ま、ありがとう。』

 素直になれなかったけど、この花を贈ってくれて嬉しかった。彼岸花とよばれ、死を連想させるイメージを多く持たれているが、私はこの花が好きだから。

 私のこの赤い目も、この時代、そして人にも恵まれ崇められてはいるが、もし時を違くすれば、その反対だったかもしれない。彼岸花∞曼珠沙華≠サの二つの名前の相反するイメージに自分と同じものを感じ取っていたのだ。

『ねえ、夜琴。毎日は楽しい?』

 苦しい人生に巻き込んでしまった。本来その魂は安らかに、安らかに眠り続けるはずだったのに。

 夜琴は少し目を見開くと、すぐに温かい微笑みを浮かべた。

『幸せだよ。お前と一緒に生きることができて。お前の幸せは私も共に感じあいたいし、お前の苦しみ、悲しみも共に受け止めて生きたい。世間から、私の存在は許されるものではないし、お前と私の関係も許されない。でも、私達は二人で一つなのだ。人がどう言おうと、どう考えようと関係ない。そうじゃないか?』

 そう言って、曼珠沙華を握り締めた手ごと大きな手で包み込まれる。その冷たい手は、私にとってはひどく温かかった。ほのかな幸せで、心が満たされていたのだ。

思い出した途端、決壊したように涙がボロボロ零れてきた。胸に空いた喪失感、どうして、私の大切なものを忘れてしまっていたのだろう。私の大切な、小さな、そして大きな幸せを。

 気づくともう走り出していた。夜琴の家へ。

「…夜琴。」

 向かっている森の途中で、倒れている夜琴を見つけた。いつも青白い肌が更に一層血の気を失っていて。私の声に目を薄く開けるが、ちゃんと見えているのかは定かではない。

「ミ…コト……?」

 私はすぐそばに駆け寄った。倒れた体を抱きしめる。

「どう…して……?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!私、あなたの事、一番大切なあなたの事を忘れてた。」

 すると夜琴はほっと息を撫で下ろすように、苦しみに眉間を強張らせながらも微笑んだ。

「戻って…きた…。じゃあ、さっきのは…ミ、コトではなかったんだね。」
「え……?」

 背中に手をまわすと、ぬるりとした触感がした。背中に深い、深い傷跡。

「誰が、…一体誰がこんな事を!」
「分から…ない。ただ、ミコト…の姿で。」
「私の…。」

 ということは、誰かが私のフリをして夜琴を刺したということなのか。怒りに任せて立ち上がろうとする私を、夜琴は弱々しい力でひきとめた。

「も…私、も…だめ、だ。せめて、さ…ごは一緒、に…。」
「だめだなんて言わないで!あなたが、あなたがいなくなったら、私は、私はどうすればいいの!?」

 夜琴の冷たい手が頬をなで上げる。

「ごか…いをしたまま、終わ…を迎えな…で…かった。」
「嫌だ、嫌だ…。」

 私は壊れた人形のように首を横に振り続けた。もう、何が何だか分からない。

「ミ…コト、ありが…、あいして…。」

 最期に微笑を浮かべた夜琴の表情は、本当にいつもと同じようで、その後ピクリとも動かない現状を理解できなかった、いや、したくなかった。

「やだ…。あ…や、こと…。夜琴ー!!」

 泣き叫びながら名前を呼び続ける声だけが、静かな森の中に響き渡った。


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あきゅろす。
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