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命ーミコトー
9
「そういえば、陽さんの能力って何なんだろう。」

チラリと光さんを見れば、彼はニコリと笑った。

『本人が帰ってきたみたいだし、直接聞いてみたら?』

光さんは手元に持っていた扇子をすっと窓のほうへと向けた。そこにはいつの間にか陽さんが窓に寄りかかるようにして立っていた。
会うのは久しぶりだが、よく見ると雰囲気がやはり少し蓮見に似ていて、少しドキリとしてしまった。


『久しぶりだな、光。』
『そうだな。全く、陽ちゃんがしっかりと陽杜君のことを見守ってなかったから、ややこしい事になっちゃって…。』
『すまんすまん。…陽杜も悪かったな。』


陽さんは近づいてくると、蓮見の頭にポン、と手を置いた。いつもする側の蓮見がされる側になっている光景は少し奇妙で、でもどこか自然な感じがした。光の狛という役目で繋がっているからだろうか。


「いや、まあ、そもそも想定できたはずの事に対処し切れなかった俺の責任だし…って、おい、いつまで撫でるんだ。」


微笑みながら頭を撫で続ける陽さんに、蓮見は少しすねたようにしてその手を払った。子ども扱いされた気分になったのだろう。
でも、何百年も前に生まれた光さんと陽さんにとっては、蓮見も子ども同然なのかもしれない。多分見かけ的にも蓮見の方が若いし…。


『それで、私の力の話だったか?』


陽さんは私のほうを見た。優しげで男らしい目と視線がかち合う。私は大きく首を縦に振った。その様子に陽さんは口元を和らげると光さんの隣に腰掛けた。

『私の能力か…。光と違って人の役には立たないものだったよ。』
「そうなんですか?」
『ああ。私の能力は自己治癒能力だ。』
「自己治癒?」
『怪我をしてもすぐに治る。病気にもかからない。私も光もこうした容貌ではあるが、これは本に自分達の魂の一部を封印した時の姿だ。
実際私が死んだのは100歳を超えていた。この時代でもそれは大変な長寿だから、私達の時代だと尚更でな。周りが好奇な目で私を見るもんだから、山にこもっていたよ。あの空狐山でな。そうしたらいつのまにか仙人扱いされてた。』

あまりに真剣な顔で陽さんが言うので、私も光さんもみんな思わず笑ってしまった。


『人を癒す光と、自分を癒す私。本当に私達は対の狛だった。といっても、私は民の何の役にも立たなかったのだが…。』
『おい、そんな事はないぞ。』


光さんが陽さんの肩に手を置いて言った。


『その力を持って、お前は人が出来ないような命がけの仕事を率先して引き受けていたじゃないか。いくらすぐに治るとはいえ、痛みを感じるのは普通の人と同じなのに…。』
『光…、ありがとう。』


そういう二人の間には確かに太い絆を感じた。そのしっかりとした心の繋がりがひどく羨ましく見えたものだった。


「でも陽、お前も光と同じぐらい力が強かったんだろう?お前の能力は一つだけだったのか?」


蓮見がふと思いついたように言った。陽さんは少し驚いたような顔をしたが、すぐに首を振って答えた。


『…いいや、俺は一つだけだよ。』
『でもな、陽の凄い所は力に頼らないで、自分の力で努力して何とかする所なんだ。』

少し気まずそうに言った陽さんに重ねるようにして、光さんがフォローを入れるように口をはさんだ。
あまりの力の入れように、陽さんはぎょっとして、少し目元を赤くした。


『おい、やめろよ光。』
『老若男女問わず人気があって頼りにされて。私なんかは何の努力もせずにその日暮らしでフラフラしてただけで。いや、もう、私にとって陽ちゃんは神にも等しく…』
『光、本当そのくらいにして。そこまで言われるとかえって信用味がなくなる…。いや、そもそも大分脚色されてるし…。それに、私はお前の方が凄いと思うし…。』
『何を!?』


私達三人を放っておいて、ついに二人で褒め殺し大会を開催してしまった。当人達も照れて顔を赤くしているが、聞いているこちらも相当恥ずかしい。


「あの、お二人とも…お二人とも素晴らしいことと仲がよろしい事は本当に良く分かったので、それくらいで…。」


ついに耐え切れなくなってそう遠慮深げに声をかけると、二人ともハッと我に帰って顔を更に顔を赤くした。何だかこの時ばかりは、伝説の狛には見えず、ただの親友バカに見えた。


私達は、陽さんと会わない間に起こった出来事を話した。陽さんは力が最近弱っており、蓮見の中から抜け出してどこかで休養を取っていたようである。
だから、最近起こったことを全然知らず、申し訳なさそうな顔をしていた。


『陽杜、お前が大変な時に傍で守ってやれなくて悪かったな。一応私はお前の守護霊のようなものなのに。』
「いや、そんな事ねえよ。というか、陽は俺の守護霊だったのか。初めて知った。」

そう言うと陽さんはニカッと笑って蓮見の頭を乱暴に撫でた。蓮見、随分守護霊に愛されてるね。
チラリと藤家の方を見てみると、嫌そうな顔で光さんの事を見ていた。そうか、ということは藤家の守護霊的な存在は光さんなのだ。
そんな顔をしながらも、二人はちゃんと仲がいいってことは分かっているので、むしろ微笑ましかった。


『それにしても瑠璃がか…。』
「陽さんも瑠璃さんの事知ってますよね。」
『ああ、それはな。四人で幼い頃は一緒に遊んでいたし。とは言っても、私は瑠璃とは気が合わなかったがな。瑠璃は光の事を好いていたし…。』
「えっ、光さんの事を?」
『おい、陽ちゃん、そんな事…。』
『何だ、本当の事じゃないか。お前もその気持ちを知ってて散々弄んでいたよな。』


そう意地悪く陽さんが言うと、光さんはしゅん、とうなだれてしまった。


『あの当時の私は、本当にどうかしていたんだよ…。』



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