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命ーミコトー
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「でも改めてですけど、やっぱり狛は普通の人とは違うんですね。」

蓮見が神妙な顔つきで光さんに話しかけた。

『ああ。一応巫女の守り役だし、盾となる役目でもあるからね。』
「じゃあ、俺や藤家にもそういう力があるんですか?」


そういえばそういう事になるのだろう。
狛の証でもある勾玉の痣は二人ともかなり力が強い方という場所についている。まさか、力が全く無いわけではないだろう。


『そうか、陽杜はまだ自分の力に気づいていないのか。』
「俺は…?ということは、藤家は自分の力がどんなものだか知っているのか?」


蓮見は驚いたように藤家を見た。藤家は突然自分のもとに飛んできた質問に対して、普通に頷いた。


「えー!?私も知らなかったんだけど。」


何だか話してくれなかったのが悔しいと思い、ジロリと睨むと、藤家は困ったように眉をハの字にさせて苦笑いした。
それから光さんと目を合わせると、二人で肩をすくめあっていた。


さすが同じ影の狛、小さな頃から一緒だったもの同士の絆というか、血の繋がりというか。そんな気持ちが通っている二人の様子を見て、何だか少し羨ましく思ってしまった。


「そうは言っても、俺もはっきりと気づいたのは本当に最近だよ。そんな…大した力でもないし。
蓮見先生だって、気づいていないだけで、もしかしたら今までに症状が出ていたかもしれないし…。先生、何か昔から人とは違ったことってありましたか?」


すると蓮見はうーん、と首を捻りながら考え始めた。
私も一応考えてみるが、ダメだ、思いつかない。そもそも学校での蓮見の姿しかあんまり知らないし…。

「あっ!」
「何か思いついたの?」
「俺イケメン!」


その発言からしばらく気まずい沈黙が流れ、蓮見は「すみません、真剣に考えます。」といって、少し落ち込んでしまった。
ごめんよ、突っ込むのも馬鹿らしかったというか、なまじっか完全に否定が出来ないのがむかついたというか…。

「別になあ…これといって。」
「数学の教師だし、実は人並みはずれてIQが高いとか?」


私がそう言って口を挟むと、蓮見は私をチラリと見て大きくため息をついた。


「お前なあ、自慢じゃないが、陽が書いたあの本が読めなかった残念な俺だぞ?勉強だって基本は嫌いだったし。
数学だって、別に他のよりも出来るぐらいで、ものすごく天才的なレベルなわけでもないし…。あ、そういえば、昔から体育は得意だったな…。」
「体育?」
「そうだ!体力には自信があるな!」


うんうん、と嬉しそうに蓮見は一人で頷いた。


「そんなに体力自信あるの?」
「ああ。ずっと本気を出さないのに慣れていたから、自分がそうだったことを忘れてたが。最後に本気で運動したのは、確か小学校1年生。」
「小学校1年生!?」


そんなの、はじめてちゃんと運動を習った時じゃない。私は驚いて藤家と顔を見合わせた。


「確か50メートル走でだったかな。俺は幼稚園に行かずに家にいたからそんな距離を走るのが初めてだったんだ。そうしたら、タイムが6秒台で。計測した先生はストップウォッチが壊れたかとはじめは思ったらしいんだが、もう一度走らせてみたら、やっぱり目に見えて早い、と。
プールのときもまずは潜ってみましょう、で俺が5分以上も水から出てこなくてパニックになったとか…。とにかく体育の時のたびに担任を驚かして、とうとう担任が寝込んじまって…。
それからすぐに母親が遠くの小学校に転校させて、半分の力以上は出しちゃいけないって教え込まれたんだ。
あんまり小さな頃からそうしていたんで、俺自身忘れてたな。」

そう言って口を開けて笑う蓮見を、私は呆然と呆れて見ていた。
話だけで全く真実味がないというか、話しているのが蓮見なのか、いまいち信じられないが、じゃあ、蓮見の能力は並外れた身体能力なのだろう。
そういえば、彼は驚異的な視力の持ち主だが、彼の五感が人よりも優れているのは、それも狛の力なのだろうか。それにしても…。


「蓮見先生、体育の先生になればよかったのに。」
「いや、むしろオリンピックの選手になれてたと思うけど…。」


本当に、どうして数学の教師の道に進んだのか、全く持って謎である。



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