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命ーミコトー
7
ミコトは、私の醜い心の影響をすっかり受けてしまった。夜琴との思い出は全て消え、代わりに私が夜琴に抱いている憎しみがミコトの胸に住みついた。

ミコトは盲目的に私を愛するようになった。

はじめのうちは自分の気持ちがミコトに届いたのだと嬉しく思っていたが、すぐにそれが普通でいないことに気がついた。
何かの精神の病気かもしれないと思って調べているうちに、洗脳という力の影響を受けた者の事を知った。
そして、自分がその力の持ち主でミコトに対してその力を働いてしまったことも…。


自分のやったことが恐ろしくて、でもそれを正当化しようとして、私はこれが一番良かったのだと思い込むことにした。
夜琴はミコトと血の半分繋がった兄弟だし、本当はこの世にいていい存在でもない。夜琴がミコトの事を苦しめることになるという事は明白だったから。
だから、私はそれに対して何の対処もせず、そのままにしておいた。そうしておいて、全く何も起こらないはずがないのに……。


陽も、この突然のミコトの変化に段々と気がついて、ある日私を訪ねてきた。私は自分のしでかした過ちを知られたくなくて、咄嗟に嘘をついた。

実は夜琴は瑠璃と愛し合っている。ミコトは裏切られたのだと。

陽もミコトの事を愛していると知っておきながら、そういうことを言ってしまった。
いつもはすぐに熱くなる陽が、この時は別人のように落ち着いて静かな目をしていた。
ただ、私に向かって、良かったな、お前にならミコトを安心して任せることが出来る、とだけ言うと陽は引き下がっていった。
あの静かな目は、今でも忘れられない。』


光さんはフッと私の顔を見つめると、悲しそうに微笑んだ。
何故だかその表情が胸の奥まで届いた気がして、私はひそかに自分の手をギュッと握り締めた。


『私のことを…軽蔑したかな?』


光さんは遠慮がちに聞いた。私はその目を見つめたまま首を横に振った。


「いいえ…。確かにそれはやってはいけない過ちだし、許されないことですけれど…。
人間、誰しもどこかに自分でも驚くくらいに深い闇を持っていると思います。
ただ、それが表面に現れるか、行動に移してしまうのか、心の中で止めておくかの違い。そんな狂気を起こしてしまう可能性は誰しも持っています。」
『そう…、ありがとう。君に言ってもらえると、何だかミコトの許してもらえたような気がしちゃうよ。』
「いえ、ミコトの巫女は、多分それに関しては一生許さないでしょう。」
「おい、ちょっと榊!」


私の口から自然と言葉がすり抜けていった。そんな私を蓮見は慌てて止めようとする。私は胸に手をあててグッと握り締めた。


「でも、ミコトの巫女はそれさえも受け止めてくれていると思います。」
『え…?』
「彼女も禁忌を犯した身であるし、それに、何よりも光さんのことを心から大切に思っていてくれているはずだからです。」


光さんの目は大きく見開き、それから眉を下げて笑った。
その目のふちからスーッと雫が流れ落ちて、その様子は光さんの心の中で積み重なった黒い塊を、静かに浄化していっているかのようだった。


『そうか…。ミコトは、夜琴だけじゃなく、私のことも、陽のことも、大切に思ってくれていた。
ただ、その形が違うだけで。それに気づけなかったのだな。
まさか、あの時の私達よりも若い命ちゃんに教えてもらうとは、ね。……ありがとう。』


そう言って微笑んだ光さんの表情は、今まで見た中で一番綺麗で優しかった。



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