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霞宮夜の君
4
和枝はついに折れ、少年を家に連れ帰ることにした。
少年の手を引いて歩く帰路はいつもろ何も代わり映えしないはずなのに、妙に落ち着かなく視線をきょろきょろと泳がせていた。
真夜中で人通りがないにしてもこの姿を見られて無事に済むはずがない。
それにしても…

ずいぶんと冷たい手だな。

和枝は自分の繋いでいる少年の手を見下ろした。
マネキンのような作り物めいたこの手は今和枝の左手をしっかり握りしめている。
その視線に気がついたのか、少年は顔をあげた。

「感謝するぞ、娘よ。」

にこりと綺麗な顔で微笑まれてしまったら文句が言えなくなってしまう。

「別に…。とりあえず今晩だけだからね。」

そう、とりあえず今日は泊めて、それから詳しいことを聞けばいいわ。
私も明日はまた大学があるし、早く休まなくてはいけない。
それに確かにこの美しすぎる少年をあのままにしておくわけにはいかないし。

「名前を、聞いてもいいかな?一晩世話になるのだから。」
「……御石和枝(ミイシ カズエ)よ。」
「みいし、かずえ?どのように書くのだ?」

口で説明するのも面倒くさいなと思い、和枝はゆっくり宙に字を描いた。

「御石、和枝…か。美しい響きと字だな。」

言うことまでこの子は小学生らしくないんだから。
それこそ本当に月の者かもしれないなんて思ってしまう私はやっぱり少しまだ酔っているのかもしれない。

「…それで、あなたは何ていうの?」
「わらわか?…そうだな、和枝の好きに呼んでくれていい。」

まったく、この子ったらちゃっかり名前呼び捨てなんだから。
普通初対面の小学生なんかに呼び捨てにされたらだなってなんか言われないけれど、なぜだろうか、この子にはそれが自然なように感じてしまう。
不思議と人々の心に入り込んで虜にしてしまう、あのなよたけのかぐや姫のように。

「…かぐや。」
「かぐや?」
「そう。あなたのこと、かぐやって呼ぶわ。」
「それはどのように書くのだ?」

かぐやの漢字なんて知らないな。
そう思った和枝は即興で当て字をすることにした。
この少年のイメージで…

美しすぎてどこかはかない、いつかは急に消えてしまいそう。そして、どこか気品のある雰囲気。高飛車な態度。そして今日の月の美しい幻想的な夜。

和枝はゆっくり再び人差し指で文字を描いた。

「霞…宮…夜…。霞宮夜か。良い字だ。」

満足したのか少年、霞宮夜は満面の笑みを零した。



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あきゅろす。
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