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幻想水滸伝夢小説
Visitor Act.4

 闇に沈んでいた意識が浮上するにつれて、知覚が鮮明になる。
 周囲の音、シーツの感触、消毒薬の匂い。次いで、身体の痛みを感じたが、耐えられないほどではない。 そう遠くないところから聞こえる声に、レイは意識を集中させた。
 男、数は、三。
 そう分析をすると、レイは重い瞼を持ち上げ、ゆっくりと声のする方へと顔を向けた。すると、2メートル程離れたところで、話し込んでいる男達が見えた。 一番奥にいるのは背中まである長い髪にめがねをかけた優男だ。年は40手前位だろうか。話しながらも手際良く医療器具を扱っている。
 もう二人、こちらは腰に剣を下げていた。
 片方は後ろを向いているため真っ青なマントしか見えないが、あの目立つ色はいただけない。もう片方の男は、全体的にくすんだ色で簡素な作りの服を着ている。普段着と言えないこともないが、見慣れない形の装いだ。
 あまり良くない状況だ、とレイは思った。身体を動かしてはみたが、鉛のように重い。レイは深く息をはくと、せめて最
悪の状況にはなってくれるなと、信じてもいない神に祈った。
 一旦男たちから視線を外したレイは、今度は部屋の中を観察した。
 薄暗い部屋には、幾つものランプが灯されていた。窓から見える空は赤く色付いおり、天井も壁も石で造られた部屋は、厳つい雰囲気を醸し出していた。床は見えないが、足音から察するに、やはり石造りで、敷物は敷いて無さそうだ。ベッドは固く人一人が横になるのに必要最低限な大きさだが、シーツからは石鹸の清潔な香りがしている。
 レイは、そこまで考えてから初めて、自分が生きていたことに驚いた。
 自分はかなりの深手を負ったはずで、あの状況下で逃げ仰せたとはとても思えない。だが、彼らが自分を連れ帰る筈もない。逃亡者には「死」以外の道はないのだから。

 ではここは何処なのか。
 何故ここにいるのか。

 じっと観察するレイの視線に先に気付いたのは、フリックだった。
「気が付いたか」
 フリックはそう声をかけてベッドへと近づいてきた。
「とりあえず報告だな」
 ビクトールは、ベッドを通り越して部屋の入り口まで来ると、少しだけドアを開け、廊下に待機していたうちの一人を報告に遣らせた。
「この城は戦争中でな。別にアンタがそうだと言ってる訳じゃあないが、間者や刺客が紛れ込むのは色々不味いんでね。正直に答えてくれると有り難いんだが」
 ビクトールはベッド脇まで来ると、剣の柄に手をかけた。フリックも剣には触れていないものの、威圧感を放っている。
「ビクトール殿、フリック殿。怪我人にあまり無体なことをなさらないで下さい」
 先程、医療器具を器用に扱っていた男が近づいてくる。いつの間にか薬湯を持ってきていた彼は、二人の間に割って入った。
「仕方がないだろう、ホウアン。必要悪さ」
 フリックは肩をすくめた。
「怪我が治るまでは、私の管轄ですので。無理だと判断したら、中断させていただきますよ」
 それは、治ったら好きにしてかまわないと、取れなくもない言い方だったが、あえて問う者はいなかった。 ホウアンと呼ばれた男は、手にしていた薬湯をベッド脇の棚に置くと、
「ちょっと失礼」
 そう声をかけてからレイの背中に手を差し入れた。
 彼の指示で、ビクトールとフリックはレイの両側に回ると、レイの背中とベッドの間にに隙間を作った。そこに丸めた毛布や枕を幾つも差し入れ、器用に背もたれを作っていった。
 途中、レイが痛みに耐え切れなくなった為、中断と再開を繰り返しながら、どうにか背もたれが出来上った。
 ホウアンに薬湯を渡されたレイは、棚の上のトレイの中に水差しを見つけ、無理に身体を起こさずに寝たまま飲ませてくれた方が、傷も痛まずありがたかった、と思ったのだが、薬湯を一口飲んだ瞬間に考えを撤回した。とてもではないが、ちまちまと水差しで飲んでいられるような味ではなかった。正露丸を飴がわりに口の中で転がしていたほうが、何倍もましだと思えるほど、筆舌に尽くし難い味だった。
 レイはホウアンを見上げ、目で味の酷さを訴えたが、有無を言わさない笑顔に押し負けた。すがる思いでビクトールとフリックにも視線を向けたが、こちらは目をそらされた。
 再び手元の薬湯に視線を戻したレイは一度深く深呼吸し、覚悟と共に一気に飲み干した。
 ビクトールは口笛を吹いて感嘆し、ホウアンは、空になった器を受け取りながら
「皆さんも、このぐらい潔く飲んで頂けると作りがいがあるのですけれどね」
 とのたまった。フリックは、無理をするなという表情で、不味さをやり過ごしているレイを見つめている。

「さて、そろそろいいか。」
 レイが薬湯の洗礼を受け終わった頃、見計らたようにビクトールが口を開いた。
「んじゃ、さっきの続きだ。お前さんの名前と出身地。それから、なぜあの場所にいて、なぜそんな怪我をしている?」
 そう問いかけられたレイは、ビクトールを見つめていたが、口を開かなかった。
「黙りはお前さんの為にはならないぜ。俺だって好きこのんでこんなことをしてる訳じゃあないんだ」
 ビクトールは一歩近づくと、ベッドへ両手をつき顔をレイに近づけた。フリックは剣を何時でも抜けるよう柄を握っている。
 それでもレイは口を閉ざしたままだった。
 剣呑な気配を纏った二人は、互いに顔を見合わせると、レイに向けて最期通告を言い渡した。



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