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これが、いま再び俺が自分の性癖に絶望しそうになっている理由だ。

俺は貴一とこれ以降仲を発展させないことに決めた。
諦めるしかない。お互いのためにはそれが一番良い。

勝手かもしれないが、そう思うことにした。






「お待たせ致しました、じゃが芋とアンチョビのパスタです。」


貴一の作ったパスタを席まで運ぶ。
同い年くらいの女の子達3人の席で、テーブルの上に皿を置くと覗き込んで小さく歓声を上げた。
それに二コリと笑って返し、彼女等に話しかけられたので二言三言応えて席を離れる。

今日は平日なこともあり、お客の数はそこそこだ。
忙しすぎなくて、こういう日が一番好きだ。



「何、楽しそうに話してたじゃん」


ホールの奥に戻ると、キッチンから身を乗り出して貴一が絡んできた。
ここの店は厨房が半分だけ見える造りになっている。


「別に…と言うか、お前の話してたんだよ」

「え?俺?なんで?」


貴一が首を傾げながらキッチンから出てくる。
仕事は良いのか。
もう一人のキッチン担当の駒込君がピザ生地を捏ねているが何も言わないので、ホールと同じくこちらも割と暇なのだろう。


「今日、州戸さんはいるんですか、これ作ったのってもしかして州戸さんですか、だってよ」


さっきの女の子達は、貴一がここで働いているのを、と言うかこの店でイケメンが料理を作っているというのを聞いて来たのだと言う。

こんなことは初めてじゃない。
接客をしてるわけでもないのに、貴一目当てで来る客は意外と多い。
イケメンが作る料理と言うのはそんなに魅力的なのかね。


「あー、そうなんだ。俺別にホールに出たりとかしないのにね」


貴一も慣れたもので、それでお客が増えて臨時ボーナスでも入ったらいいけど、なんて笑っている。
すると、近くにいた俺と同じホール担当の伊佐さんが目をキラキラさせて入ってきた。


「あたしだって州戸さんの手料理だったらお金払ってでも食べたいって思いますよ!」

「えーそう?はは、ありがと。今度まかない食べるとき作ってあげるよ」


伊佐さんは1個下の大学1年生で、俺の後輩だ。
大学で話すことは少ないが、まあまあ仲は良い。

貴一の言葉に伊佐さんは「キャーやったー!」とはしゃいでいる。
やっぱり女の子は、貴一みたいなのが手料理を振舞ってくれたら嬉しいのか。

そんな貴一の手料理を、俺は何度となくご馳走になっているのだが。

世の女の子に悪いと思いつつ、…ちょっと優越感とか感じないでもない。
にやけそうになるな、俺の顔!


「名瀬センパイは州戸さんの手料理よく食べてるんですよねー、羨ましいです…」


あれ、何でバレてんだ。

いや当たり前か、ここのバイトで俺と貴一が家を行き来してんのとか知らない奴いないよな、たぶん。
本当に羨ましそう(と言うより恨めしそう…)に、伊佐さんがこちらを見つめてくる。

何となくバツが悪い。


「あー、まぁな」

「亮平の好物だったら俺完璧よ?何でも作れるぜ」


貴一がニヤけながら後ろから俺の肩を抱くように腕を回してきた。

何をする、火を注ぐな、伊佐さんの目がじっとりしてきたじゃないか!


「もう、ホント州戸さんと名瀬センパイ付き合っちゃえばいいんですよ」

「…え?」


伊佐さんの口から出た言葉に一瞬聞き間違いか?と目を瞬かせた。


「伊佐さんもそう思う?俺としてもそうなればいいなーと思ってるんだけど、亮平がなかなか振り向いてくれなくてさ」

「えー!そうなんですか?!名瀬センパイ、こんな州戸さん捕まえといて!」


こんな州戸さんてなんだ、誰もがときめくイケメンてことか。

俺の混乱をよそに、貴一と伊佐さんの会話は盛り上がっていった。
伊佐さん、貴一に気があったんじゃなかったのか。さっきの目はなんだったんだ。

それよりも貴一だ。
こんなあからさまにハッキリ、俺とそういう風になりたいなんて口にしたこと今までなかった。冗談でもだ。

だからこそ俺は、貴一とこのまま友人としてやっていけると思っていたのに。

どうしたんだ、そんな風に言われて、俺はどう返したらいいんだ。


俺を置いてきぼりにして続いている会話はまったく耳に入って来なかったが、新しく入ってきた2人連れに伊佐さんが接客に出て、話はそこで終わりとなった。

貴一も俺に何か声をかけると、キッチンに戻っていった。

残された俺だけが、しばらくそこに立ち尽くしていた。



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