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初めて自分の性癖を自覚したとき愕然とした。

自分は他人とは違うのだと、人と同じようには幸福を得られないのだと気づいた。

当時まだ中学2年生という、多感でやたら繊細な年頃だった俺は、それはそれは悩んだ。
否定しようとする度に自分自身の体がそれを裏切り、今まで自分が立っていた世界が足元から崩れ落ちていくようだった。

急に同級生たちが遠くに感じられた。

しばらくして、自分と同じような性癖を持った人間が意外と多く存在することを知ると、それはすとんと俺の中に落ち着いた。

俺はいわゆるM、マゾというものらしかった。

文明の利器とは素晴らしい。
ちょっとネットで調べてみれば、いくらでも俺のような奴は見つけられた。

痛めつけられて性的快感を得る、罵られて蔑まれても悦んでしまう。
体育の授業中、サッカーのボールが顔面に直撃して鼻血を流しながら、内側から沸き起こる何ともいえない衝動に打ち震えた。

それまでも小さな兆候はあったのだろう、ただはっきりと自覚したのがその時だった。
心配するクラスメイトの声も脳には届かず、確かに痛みは感じているはずなのに、それに伴い反応しそうになっている自分のものに戸惑いを隠せなかった。

自分はどこかおかしいのだろうか。
誰にも相談できず、ただもう元の自分には戻れないのだということだけははっきりと分かり、それが何より怖かった。

何も自分ひとりが異常なわけではなかった。
そのことに、ひどく安心した。

それでもその他大多数の人間からしてみれば特殊なことには変わりないのだが、うだうだ考えても仕様がない。
悦いものは悦い。

別に俺は「女王様、貴女の下僕めに鞭をお与え下さい!」なんて息を荒くして懇願したいとか思わない。
自分では割と分別のある、Mの中でもマシな方と言うか(他のMの人たちを貶めるつもりはまったくないけど)、それなりの誇りは持ったMだと思う。

所構わず刺激を欲したりしないし、誰彼構わず殴って甚振って欲しいわけじゃない。
痛いのも罵られるのも好きだけど、普通に喧嘩を売られて罵詈雑言を吐かれたらそりゃイラっともするわけで。

自分を苛めてくれる「ご主人様」を探そうとも思わない。
ただちょっと性的欲求にマゾヒズムが付随しているだけなのだ。
俺は自分をそう思うことにした。

成長するにつれて、俺みたいな性癖以外にも変わった趣向というのは数多あることも知った。
足フェチとか女装フェチとか、人の性的な好みなんて
本当に多岐に渡る。

皆何かしらアブノーマルな部分を持っているのだと、その中で自分はこういうものなのだと開き直ってしまえば、すごく楽になった。

そうして、一度は自分の性癖を受け入れて、大学2年のここまでやってきた。


俺は今、再びこの性癖に絶望しかけている。




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あきゅろす。
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