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どうでもよかった。



薄く立ち込める雲の下。





ただ呆然と空を見上げる私を、
これでもか、というほどに押しつぶすのは

雲行きの怪しい空で。



時間が経つにつれてどんどん不安定になっていく私の心をどうにかして欲しい。




ふと前を見ると、黒い塊が転がっていた。



...。
見なかったことにしようか。
そうしようか。
どうしようか。


...頭の中をぐるぐると回る、そんな声。
オーバーヒートしてしまうくらい私の頭は最善策を模索していた。





結局、見逃すことも出来るわけがなく
私は渋々とその塊に近づく。


近づいて見てみると、それは
大破している死体だった。



...。
見ないことにすればよかった。
この場合、見なかった、ことにすればよかった、
とでも言うのだろうか。

日頃の行いは悪くないと思うし、
私は何も


悪くないはず。




とにかくもう息をしていないその肉片は放っておいて。
今、見たものは
なんでもない、大したことはない、
と。

そう言い聞かせて、私はその場を後にした。





はずだった。
その場を後にしたはずだったのに。


なぜだろう。
ようやく着いた、と思った自宅。


目の前で先程と同じような光景が広がっている。

ふと前を見ると、黒い塊が転がっていた。
そんな光景。



1度体験してしまった手前、もうどうでもよかった。


こつこつ、と踵を鳴らしてその塊に近づいていくと今度は先程と違う点に気付く。

息を、しているのだ。



現実離れしているくらい長すぎる髪の毛。
そして
閉じられた瞼を縁取る長い睫毛。
可愛らしい唇が寝息を立てているところを見ると


どうやら、寝ているだけの様だった。



生きている、と分かってしまった手前見逃すのは私が良心の呵責に苦しむことになる。
そんなのは御免だし、
何よりも、見逃したい、という気持ちもなかった。

彼女が何者であれ、そんなことはどうでもよかったのだ。


見た目が特異で、拘束衣の上にマントを羽織っていても。
私にはそんなことどうでもよかった。




彼女を抱え、家に入る。
一人暮らしの殺風景な部屋の中、
寝息を立てる彼女の存在が、とても大きく感じた。





見た目の違い、だとか
出会いの経緯、だとか


そんなことは、



どうでもよかった。












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あきゅろす。
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