アイドルパロ ああ! もうイライラする! なんでよりによってアイツなのよ! 私がイライラしている原因は、つい30分前の出来事に遡る。 * * * 「リン、ユニット組むことになったから」 それはマネージャーのメイコさんから突然告げられた。 「はい?」 私は素っ頓狂な返事をしてしまう。だって、わけがわからないんだもの。 ユニットって… 誰かと一緒に歌うって事よね? 「その……誰と?」 私はニッコリと、なるべく平然を装ってメイコさんに問いかける。 「ほら、カイトのところの」 カイトさん。 メイコさんの友達で、私もよく顔を合わせる。確か彼もマネージャーをやっていたはず。その担当というのは確か… 「鏡音レン?!」 「そうそう」 メイコさんはお酒の入ったグラスを片手に首を縦に振る。ちょっと今勤務中なのにお酒って…じゃなくて! 「なんで?!」 「ほら、前バラエティ番組でさ、あんたら共演したじゃない」 …あぁ、確かにそんなこともあったかも。 司会の人に「君たち本当に双子みたいだね」って言われたんだ。 それから話が盛り上がって、一緒に双子としてデビューしてたらもっと人気がでるかもねって笑いあって… 「まさか…」 「多分あんたの思ってる通りよ」 自分の顔から血の気が退いていくのが判る。 鏡音レンといえば、今や人気絶頂中のアイドルだ。 変声期真っ只中の声に幼さを残す甘いマスク、まだまだ高くなる可能性を秘めている低めの身長。 どの年代にも大人気の彼。 普通なら、彼とユニットを組むとなれば喜ぶかもしれない。 …でも私はイヤ! だって、知ってるんだもの! 彼のテレビに映る姿は偽物で、本当は根暗だっていうこと! メイコさんとカイトさんが仲が良いこともあり、レンと顔を合わせることも何度かあった。 初めての時はテレビの顔しか知らないから、どんな子だろうとドキドキした。 しかしどうだろう! 実際に会ってみたら目も合わせないし、話しかけてみても短い簡潔な返事しか返ってこない。 見せかけだけの男だったのかとガッカリし、レンの印象は最悪なものとなった。 そんな子とユニットなんて組めるはずがない! 「絶対イヤ!」 「そういわれてもねぇ。社長が張り切っちゃって」 「…う。」 「あんたがそんなに嫌がる理由も分からなくはないけど、もう少し仲良くやって欲しいわ」 「でもっ…」 「言い忘れてたけど、このユニット、期間限定だから」 「へ?」 …ああ、例のバラエティ番組の主題歌にでもなるのかな 「あんたら2人、ドラマデビューよ。おめでとう」 けたけたと笑いながらメイコさんはさらりと…とんでもないことを……え…? 「えええええぇぇぇ?!」 ドラマは嬉しいけど、けど…、 なんで?! 「主演はあんたら2人。主題歌もあんたら2人。だから期間限定ユニットなの。」 「主演…2人…もしかして」 「ラブコメよー。しかも双子のね」 あの…レンと…ラブコメ? 「監督もあんたらを起用したがってて、社長もやる気マンマン、しかもファンのアンケートでもあんたらを望んでる」 断ったら分かるわよね? メイコさんの目がマジだ。 私に残された選択はただ一つ。 「うん、わかった」 そう返事をするほか残っていなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |