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Calling you





目を覚ますと白い天井。
それを、ぼーっと眺めていると視界の端からひょこりと顔が現れた。
優しそうな目をした白衣の男性。
上半身を起こそうとすると、私が起きやすいように乗り出した体を元に戻した。

背筋を伸ばし、ぐるりと辺りを見渡す。
最初に見た男性と同じ服装をした人達がたくさん並んでいて圧倒された。


「はじめまして」


声のする方に顔を向けると、眼鏡を掛けた女性がニコリと笑いながら右手を差し出していた。
私はこの状況が理解できず、ただ彼女の目をじっと見つめた。
すると女性は少し困ったような顔をしたが、すぐにまた笑顔に戻った。


「あなたの名前は"鏡音リン"。」

「鏡音…リン…?」

「そう。あなたは歌を歌うために作られたアンドロイド…"ボーカロイド"よ。」




―――思い出した。
起動したばかりで思考回路が正常に動作していなかったらしい。

そう、私は"ボーカロイド"の"鏡音リン"。
歌を歌うために生まれた機械。



「思い出してくれたかしら?」


先程の女性は相変わらずニコニコしたまま首を傾げ尋ねてきた。
私は小さくコクリと頷く。
すると彼女は私の右手をとり、「よろしくね」と言って微笑んだ。


「早速だけど、この衣装を着てくれる?」


彼女が後ろにいる人たちに合図をすると、その中の1人から服を渡された。
更衣室まで案内され、服の袖を通す。
着替えを手早く済ませると先程までいた部屋に戻った。


「あら。よく似合っているじゃない。」


私を見るなり、嬉しそうに声をあげる眼鏡の女性。
周りの人達も、なんだか嬉しそうな顔をしている。


「はい」


そう言って、今度は違う女性から白い大きなリボンのついたインカムを渡された。
私はそれを頭部に付ける。
すると彼女はニコッと笑って


「これであなたも正式にボーカロイドとして予告されるわ。おめでとう!」


と言った。
私は恥ずかしくてちょっとだけしか笑うことが出来なかったが、周りの人達はニコニコと笑いながら拍手をしてくれた。


11月7日。
私は、ボーカロイドとしてデビューすることを発表された。



 * * *



主旋律がぷつりと止まる。
それに気付いた伴奏者も手を止めた。


「…リン?」

発表されてから一週間。
私の調子はどうもおかしい。
途中で歌い方を忘れてしまうのだ。
最初からずっと、こんな調子である。
こんな毎日が続くと、流石に最初はニコニコしていた研究員たちも困惑の色を見せ始め、発売の延期を検討しようという声が挙がってきた。

―――ああ、私は失敗作なのか。

そう思えば思うほど、あの、歌の途中で襲われる感覚に陥ってしまう。
歌っている途中、意識が何処かにいってしまうのだ。
そんなときの私の頭の中は、歌詞でも旋律でもない何かが押し寄せてきて、思考回路がショートする。
結果、声はぷつりと止まってしまう。


歌うために作られた存在なのに、歌えないとなると重大な問題だ。しかし、いくら検査をしても悪い所はどこも見つからなかった。


「どうして歌うのをやめるの?」


1人の研究員が私に尋ねてくる。
私は答えを呟いたが、その声はあまりにも小さすぎて誰の耳にも届かなかった。もう一度言ってくれるよう頼まれたが、私は私で自身の呟きに疑問を感じ始め、何と言ったらよいのか分からず、口を開けずにいた。
















『呼ばれてる気がして』






誰に?







わからない。







私は己の呟きに問いたが、自身でも答えを導き出すことは出来なかった。

12月3日がくる、その日まで。







calling you




12月3日 鏡音リン・レン発表









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