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■夕日の向こうに SIDEリカルド
8
 俺より5つ年上のジョアンは、俺にとってよき兄貴分。俺と違って女と真剣な付き合いしかしていないジョアンの言葉は、重みを感じる。

 マジで惚れてる・・・かぁ。まあ、実際そうなんだろう。

 久実といると、自分で驚くくらい、知らない自分がいる。

 ムリしてあわせているわけではない。自然と、久実のペースに乗せられる。

 その久実が、マンチェスターで待っている。

 ヒースロー空港で国内線に乗り換え。これから乗る便名を久実に伝え、マンチェスターへ向かう。



 空港に到着し、荷物を受け取ってから、人の流れに乗り、久実の姿を探す。

 人の流れに逆らって、大きな荷物を引きながら、辺りを見回す小柄な姿を捉えた。

 久実だ!

 心臓の跳ね上がる音が聞こえる。

 手を振る俺に気づいたのか、そのまま小走りで久実が近づいてくる。俺も自然と、早歩きになり、そして、その体を両手で抱きしめた。

 肩下くらいまでだった髪は、胸くらいまでの長さになり、その髪の長さが、会わなかった時を感じさせる。

 涙を浮かべ、あのやわらかい笑顔で俺を迎え入れてくれる久実を見ると、再び、この手で久実を抱きしめられたことを、神に感謝したい気分にまでなってくる。

 周りの視線なんて気にも留めず、久実を抱きしめ、そして軽くキスをする。

 そして、久実を連れ、家へと向かった。




 久実が急にイギリスへ来たのには、理由があった。久実の父親が、久実に見合いの話を持ってきたというのだ。

 久実は、俺のことを両親に話してはないらしい。だから、強引に話を進められる前に、逃げてきた、と言った。

 本当なら、前の婚約者と6月には結婚していたはずで、それが破談になり、仕事も辞めるしかなかった久実に、父親はよかれと思って持ってきた話。

 でも・・・おれは嫌だ。

 久実を他の男に渡すのなんか、絶対嫌だ。

 俺はすぐにクラブ関係者に連絡を取る。今週は土曜ゲームだから、日曜から少し休みをもらえないかと。詳しいことは明日話すから、とりあえず、3日。日曜出発して、火曜には戻る。それと、往復の飛行機も。

〈休み、取れたから、日本に行こう。久実の両親に、俺から見合いをやめてもらえるよう、話すよ。〉

 俺の言葉に、久実は何度もゴメンと言う。忙しい俺を、更に忙しくさせてしまった、迷惑をかけたって。

 俺は、久実を手放したくないから、自分のために動くだけで、久実が困っているからと言うわけではない。

 だから、久実が謝る必要なんてない。

 それに、更に久実を手放せなく事実が判ったから。

 近くのスーパーマーケットで買い物して、夕食は久実に任せた。手伝えることがあったら、手伝うとは言ったんだけど。

〈今日ポルトガルから帰ってきたんでしょ?ゆっくりしてて。〉

 その言葉に甘えて、何が出来るか楽しみにしていた。

 出来上がったものは・・・ポルトガル料理。驚く俺に、

“まだ簡単なものしか作れないけど、実は内緒で勉強してなの。ポルトガル語もね。”

と、ポルトガル語で久実は言う。

 思わず、久実を抱きしめる。

 日本にいる3ヶ月の間、俺の為に言葉を覚えて、俺の為に、俺の故郷の料理を覚えて。

 俺の為に、時間を費やしてくれていた久実が、とても愛しく思える。

 世界中の人に、自慢したくなる、素晴らしい人だと俺は思う。

 他の男に渡さないよう、俺のものだと、みんなに言って歩きたいくらいだ。

 久実にそのことを言うと、

“まぁ、大げさね。”

 そう言って、嬉しそうに笑っていた。


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