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■夕日の向こうに SIDEリカルド
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 久実と別れて日から3ヶ月ほど経ち、W杯予選でポルトガルに一時帰国していたとき、夜間練習を終えた後、携帯に1件の不在着信があることに気が付いた。久実からだ。

 20時・・・てことは、日本では朝の4時。

 珍しい時間の連絡。何かあったか?

 宿泊先に戻ったのが24時前。日本は9時前だろうから、今なら電話しても大丈夫だろう。

 そう思い、久実に連絡を入れる。

 その久実から、思わぬ事実を告げられた。

〈今ね、マンチェスターのホテルにいるの。〉

 ・・・なんでこう、タイミングが悪いんだ。

 ポルトガルに来てさえなければ、今すぐにでも迎えに行くのに。・・・しかも予選、明日だし。

 俺がポルトガルに居ることを告げると、久実は無言になる。なので慌てて、

〈しばらくそっちにいる?俺、明後日には帰るから、それまで待ってて。〉

と付け加えた。

〈うん、おとなしく、帰ってくるの待ってるね。〉

 ほっとしたように言う久実の声を聞くと、今すぐにでも抱きしめたい気分に駆られる。

 久実には暗くなったら出歩かないことと、人通りの少ないところには近づかないことを念押しする。

 俺がいない間に、久実に何かあれば、俺はポルトガルに来たことを後悔するだろうから。

 あと少しで、久実をこの手で抱きしめられる。あの笑顔が、イギリスで待っているんだ。

 こんなに、人を愛しいと思ったことは無かった。

 きっと久実は、マンチェスターに到着して、すぐに連絡をくれたのだろう。着信が1件だけっていうのも、久実らしい。1回だけ連絡を入れて、後おとなしく連絡を待っていたんだ。

 絶対に、久実を手放すようなことは、しない。

 そう誓って、俺はその日眠りについた。





 試合を終えた次の日の朝。リスボン空港から久実に電話を入れる。

〈8時発の飛行機に乗るから、14時ごろにはマンチェスターに着くよ。ホテル、チェックアウトしといて。〉

 俺がそう告げると、

〈わかった。〉

と、電話の向こうから、久実の明るい声が聞こえる。

 電話を切り、飛行機に乗るために一旦電源を落とす。

  その一連の動作を横で見ていたジョアンが、ピューと口笛をならす。

〈最近おとなしいと思ってたけど、ちゃんと続いていたんだ。あの日本人の子と。ええと・・・久実、だっけ?〉

〈なんでわかった?〉

〈顔。フェルがそんな表情してるの見たのって、久実といた時だけだし。〉

 ジョアンはそう言って笑う。

 そんな表情って・・・何か違うのか?

〈んー・・・他の女の時は、笑顔でも目が笑ってなかったけど、今は優しい目してる。どうした?やっと女遊び卒業したか?〉

 ジョアンはそう言って俺をからかうけど・・・やっと卒業って、俺まだ21歳なんだけど。いつから、どれだけ遊んでるんだ?ってなっちゃうだろ。

 ジョアンはロンドンに拠点を置くクラブに在籍しているので、リスボンからヒースローまで、帰路は同じ。てことで、機内でも久実のことを散々聞かれ続けた。

 あのポルトガルでのパーティーには連れて行ったけど、詳しい紹介もしていないし、その後の関係も、誰にも話してなかった。

 久実が日本に帰った日、ヒースロー空港で久実と一緒にいたところは目撃されていたので、パトリシアと喧嘩別れした記事の補足として『次は日本人女性か?』なんてかかれてあったけど。

 まぁ。その後の目撃情報がないので(久実は日本にいるので当たり前だが)そのまま、噂は消えてしまった。

〈フェルが他の女行かないなんて、よっぽど久実がよかったんだろうなぁ。〉

 ジョアンがしみじみと言う。きっと、大きな勘違いをしているな。

〈いっとくけど、まだ手、出してないぞ。〉

 俺が言うと、

〈何?マジで?!〉

 そのジョアンの大きな声で、周りの乗客が一斉にこっちを見る。

〈バカ。声がでかいって。〉

 俺が小声で言うと、ジョアンは周りの乗客に申し訳なさそうに頭を下げる。

〈手、出してないって、お前が?どうした?本当にたたなくなったのか?〉

 ジョアンも、今度は周りに聞こえないように小声で言うが・・・失礼な奴め。

〈あの日の夜、結局一睡もせずに話してた。何か・・・タイミングがつかめなくてさぁー。〉

 俺が言うと、ジョアンは笑いながら、

〈昔なら、タイミングなんて関係なく押し倒していたくせに。〉

と言うが、事の半数ぐらいは女がせまってきたのもあるんだって。

〈まあ、でもフェル。〉

 ジョアンが言う。

〈お前、それ本気なんだよ。マジで惚れてるんだよ。〉


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