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■夕日の向こうに SIDEリカルド
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――ピリピリピリ――

 電話の呼び出し音で目が覚めた。

 俺の呼び出し音って、あんなのだっけ?と思っているうちに音は止み、かわりに久実の声がする。

 俺に気を使ってか、小声で、日本語で話してるので、何を話してるのかは分からない。でも、その久実の顔はとてもこわばって、しかも悲しそうな顔。

 今にも泣きそうな声で、久実が口にした内容で、唯一聞き取れた、ある人物名。

―シンゴ―

 久実の元婚約者。そいつからの電話なのか?そいつが久実にそんな顔をさせてるのか?

 そう思った俺はとっさに久実の側へ行き、電話を取り上げ、

“久実を泣かせるような奴は、二度とかけてくるな!わかったか!”

そう怒鳴って電話を切った。

 目の前には、呆然とする久実。・・・しまった・・・。

〈ごめん。勝手なことして。〉

 そう言った俺に返ってきたのは、意外な言葉だった。

〈ありがとう・・・うれしかった。〉

 そう言って久実は涙を浮かべ、あの、やわらかい笑顔を見せた。

 思わず、俺はそんな久実を強く抱きしめる。

 俺が、あんなバカヤローの奴なんて、忘れさせてやる。




 俺は、久実を自分の実家につれて帰ることにした。今までの女とは違う、久実なら、連れて帰っても大丈夫だと思ったから。

 何より、あの笑顔を、もっとたくさん見たいと思ったから。

 のんびりとしたマデイラの雰囲気は、久実にはピッタリだったようで、最初は時々見せていたあの悲しい顔も、日が経つにつれて、見せなくなった。

 俺の母親とは、言葉が通じず、ろくに会話は出来ないが、それでもなんとか話をしようと、ポルトガル語を覚えようとする久実のひたむきさは、今までの女とは全く違うもの。

 両親も久実のことを気に入ったようで、俺から久実を奪うように、久実に構う。

 マデイラを発つ時、母親に、

“次の休暇も、久実を絶対に、連れて帰ってよ。”
という念押しをされたくらいに。


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あきゅろす。
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