■夕日の向こうに SIDEリカルド
3
タクシーに乗り込み、行き先を告げる。彼女は空港近くのホテルに滞在していたので、俺もそこで1泊して、明日の朝、マデイラへ行こうと思って。
タクシーの中で、今更ながら自己紹介。
彼女の名前は、久実。俺達ポルトガル人に比べ短い名前。彼女もそこが気になったのか、俺が本名を告げると、
「長い名前ね。」
と笑顔で返す。
名前の長さは気になっても、俺の名前には・・・気が付かない。
タクシーの運転手は、ポルトガル語で、
「サッカー選手の、リカルド・フェルナンデスでしょう?」
と話しかけてきたけど。
“彼女、気づいてないみただから、内緒にしてて。”
俺は運転手にポルトガル語で返したけど、やはり会話は久実に通じてはいない。
どうせならホテルで一緒に食事をしようということになり、ここで俺はものすごい事実を知らされる。
この、ふわっとした久実が、俺より4つも年上だった。
見た目も、雰囲気も、話をしてても、年上って事を感じさせなかったのに。
今まで付き合っていた女達も、みんな年上だったから、たまには年下もいいなぁと思ってた。久実は旅行でポルトガルに来てるだけだし、俺だって明日になればマデイラに帰るし。
結局、俺の周りは年上の女ばかりなんだ。
でも、久実は今までの女とは違っていた。
俺が久実より年下ってわかっても(久実は俺のこと、年上だと思ってたらしい。)、高圧的な態度に出るわけでもない。俺がとる、ささいな行動1つ1つに、やわらかい笑顔で喜んでくれる。
その笑顔をもっと見たいと思った俺は、食事が終わってから久実をバーに誘い、そこで話を続ける。
久実は結構ワインを飲んでいるけど平気そうで、ああ、やっぱり年上なんだと思った矢先、
〈ゴメン、私もうダメかも。〉
そう言って、久実は倒れていく。
・・・飲ませすぎた・・・。ていうか、いきなり潰れるのは、反則だよなぁ。
床に倒れこむ前に体を支えたので、大事にはならなかったけど、俺の腕の中の、久実の意識はない。でも、苦しそうな呼吸をしてるわけでもないし、顔色も悪くない。
・・・寝てるだけか・・。
ちょっと安心して、俺はどうしようかと思う。久実の部屋なんて知らないし、フロントで聞くのも目立つ。
久実を抱き上げて、俺は自分の部屋へと向かった。まぁ、この行動だけでも、たいてい目立つと思うが。
久実の靴を脱がせ、ダブルベッドへ寝かす。
ベッドの上の久実は、気持ちよさそうに眠っている。その顔はちょっと微笑んでいるよう。
俺はそんな久実の寝顔を見て、自然と顔がほころぶ。
本当はちょっと酔わせて、勢いでやっちゃおうか、なんて考えていた。あとくされなさそうだし。
でも、完全に寝入ったところを一方的に・・・てうのは考えもの。
フレアースカートから伸びる足とか、はだけたカーディガンから見える肌とか見てると、俺は自分を抑えられなくなってきて・・・。
久実の体にシーツをかけた。俺が欲情しないように。
手を出すのは簡単だ。
でも、ここで手を出したら、久実はあの笑顔で俺を見てくれるだろうか。
朝、目が覚めたとき、あの笑顔を見たいから、今手を出すのは、よそう。
俺はそう思って、ソファーに横になった。
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