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■夕日の向こうに SIDEリカルド
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 そして今、俺は当ても無く公園に居る。もう西の空は真っ赤で、川からつながる海に、夕日が沈むのを待つばかり。

 夕日から、川をさかのぼるように視線を動かすと、川にかかる橋の上に1人の女。欄干に体を預け、川面を見つめている。

 東洋系のその女の表情は、決して明るいものじゃない。しかも、微動だにせず、川面を見つめている。

 まさか・・・飛び込むのか?

 この上、目の前で自殺するのを見たときには、今日は最悪の日になるなぁ・・・と思いつつ、その女を見ていた。

 その時、女が動いた。

 体を動かし、欄干を両手で握り、よじ登るのか?と思いきや、次の行動は意外なものだった。

「サイトウシンゴノバカヤロー!!」

 大声で、夕日に向かって叫んだのだ。

 日本語・・・?日本人か?

 俺は日本語を話せるわけではないが、クラブチームに日本人がいて、少し教わったりしたので少しなら分かる。

 バカヤロー・・・あんまり、いい言葉じゃないということも。

 その女は、そう叫んだ後、橋の上にうずくまってしまった。

 遠目で、はっきりと顔は分からないけど、結構可愛い顔をしていた。18・19歳くらいの女の子。そんな子が、バカヤローという単語を使ったことにも驚いたけど。こんなところで、こんな時間に、1人、ということも不思議だし。

 ちょっと興味のわいた俺は、その女に近づいていく。

 すぐ側まで行っても、彼女は顔を伏せたままうずくまっていて、俺が側にいることに気づいていない。

「大丈夫?」

 日本語で声をかけると、驚いた顔で俺を見て、そのまま固まってる。通じなかったか?

 もう一度大丈夫と声をかけると、

「日本語・・・わかるの?」

そう返ってきた。やっぱり日本人。

「ちょっとだけ、バカヤロ、聞こえた。」

 俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして、

〈英語は?話せる?〉

と流暢な英語で話しかけてきた。

 英語なら、会話に不自由はしない。なんせ、イギリスに住んで3年にもなるし。

〈そう、よかった。・・・バカヤローって言ったのはね、婚約者のことなんだ。〉

 と彼女は英語で話し始めた。

 俺は、彼女の隣に座り込んで、彼女の身の上話を聞いた。会社の社長の娘に、婚約者を盗られ、破談になって悔しいから、新婚旅行で来るはずだったポルトガルに来たこと、ポルトガル語が全く話せないのに、本と地図を失くして、途方にくれていたこと、正直もういいか、と思ってたこととか。

 延々話す彼女の話を聞きながら、俺は彼女の顔を見つめていた。

 今までの俺が付き合っていた女達とは、タイプは全く違うけど、可愛いんだ。美人・・・とかではない、可愛い女の子、といった部類。栗色の緩めにウェーブのかかった、やわらかそうな肩下までの髪、長いまつげにぱっちりとした二重まぶた、大きな黒い瞳。・・・ふわりとした、優しい印象。

 ・・・年下だろうなぁ。社会人とは行ってたけど、やはり18・19歳くらいか?

 彼女は気の済むまで喋り続けて、気が付くと辺りは真っ暗になっていたので、道の分からない彼女を俺はホテルまで送っていくことにした。


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