■夕日の向こうに SIDEリカルド
2
そして今、俺は当ても無く公園に居る。もう西の空は真っ赤で、川からつながる海に、夕日が沈むのを待つばかり。
夕日から、川をさかのぼるように視線を動かすと、川にかかる橋の上に1人の女。欄干に体を預け、川面を見つめている。
東洋系のその女の表情は、決して明るいものじゃない。しかも、微動だにせず、川面を見つめている。
まさか・・・飛び込むのか?
この上、目の前で自殺するのを見たときには、今日は最悪の日になるなぁ・・・と思いつつ、その女を見ていた。
その時、女が動いた。
体を動かし、欄干を両手で握り、よじ登るのか?と思いきや、次の行動は意外なものだった。
「サイトウシンゴノバカヤロー!!」
大声で、夕日に向かって叫んだのだ。
日本語・・・?日本人か?
俺は日本語を話せるわけではないが、クラブチームに日本人がいて、少し教わったりしたので少しなら分かる。
バカヤロー・・・あんまり、いい言葉じゃないということも。
その女は、そう叫んだ後、橋の上にうずくまってしまった。
遠目で、はっきりと顔は分からないけど、結構可愛い顔をしていた。18・19歳くらいの女の子。そんな子が、バカヤローという単語を使ったことにも驚いたけど。こんなところで、こんな時間に、1人、ということも不思議だし。
ちょっと興味のわいた俺は、その女に近づいていく。
すぐ側まで行っても、彼女は顔を伏せたままうずくまっていて、俺が側にいることに気づいていない。
「大丈夫?」
日本語で声をかけると、驚いた顔で俺を見て、そのまま固まってる。通じなかったか?
もう一度大丈夫と声をかけると、
「日本語・・・わかるの?」
そう返ってきた。やっぱり日本人。
「ちょっとだけ、バカヤロ、聞こえた。」
俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして、
〈英語は?話せる?〉
と流暢な英語で話しかけてきた。
英語なら、会話に不自由はしない。なんせ、イギリスに住んで3年にもなるし。
〈そう、よかった。・・・バカヤローって言ったのはね、婚約者のことなんだ。〉
と彼女は英語で話し始めた。
俺は、彼女の隣に座り込んで、彼女の身の上話を聞いた。会社の社長の娘に、婚約者を盗られ、破談になって悔しいから、新婚旅行で来るはずだったポルトガルに来たこと、ポルトガル語が全く話せないのに、本と地図を失くして、途方にくれていたこと、正直もういいか、と思ってたこととか。
延々話す彼女の話を聞きながら、俺は彼女の顔を見つめていた。
今までの俺が付き合っていた女達とは、タイプは全く違うけど、可愛いんだ。美人・・・とかではない、可愛い女の子、といった部類。栗色の緩めにウェーブのかかった、やわらかそうな肩下までの髪、長いまつげにぱっちりとした二重まぶた、大きな黒い瞳。・・・ふわりとした、優しい印象。
・・・年下だろうなぁ。社会人とは行ってたけど、やはり18・19歳くらいか?
彼女は気の済むまで喋り続けて、気が付くと辺りは真っ暗になっていたので、道の分からない彼女を俺はホテルまで送っていくことにした。
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