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■夕日の向こうに SIDEリカルド
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 久実の家は東京郊外の住宅地にあり、成田空港から電車を乗り継いで、久実の家へ向かう。

 先に久実が家の中へ入り、母親とひと言ふた言話をしてから、

“入って。”

久実はドアの外で待つ、俺に声をかける。

 久実より何も説明されてない母親は、俺を見てフリーズした。

『紹介したい人がいる』とだけ伝えていたが、俺のことを話したわけでもないので、まぁ、驚くのも仕方ない・・・と久実は言った。

 さすがに、久実の親には自分が何なのか、説明する必要はあるな・・・そう思っていた。久実はいまだに気づいていないけど。それが。

 階段をバタバタ下りてくる足音。それと共に発せられる若い男の声。久実には弟がいるので、きっと弟の久志だろう。

 久志は俺の顔を見るなり、奇声を上げた。俺の名前を呼びながら。

 高校生で、サッカーしてて、チームでキャプテンだ・・・てことは、久実から聞いていたので、もしかしたら、とは思っていた。久実より、先に俺の正体に気づくだろうとは。

 状況が読めずに、きょとんとしている久実に、久志は必死になって説明する。そしてようやく・・・、

「えーっ?!」

久実は隣にいる俺を見て、叫び声をあげた。

“だって、久実、面白いくらいに気づかないんだもん。”



 久実に俺の正体がばれたことで、俺のいろいろな、久実の耳に入って欲しくない情報も入るかと思っていたが、久実からそのことで咎められることは、無かった。

 久志あたりは下手すりゃ詳しいんじゃないか・・・?と思ってたけど、あえて久実には教えてないのかも。

 いまだに久実を1人でイギリスにおく事が不安な俺は、

“来てもいいけど、連絡を入れてから。”

と久実に念を押し、1人でイギリスに戻った。

 そして、あっという間の2ヶ月。

 久実とイギリスで一緒に生活した、たった3日間が忘れられない。

 その思いは、日が経つにつれ、どんどん大きくなる。

 そして。

 俺は決心した。

 普段は書かないエアメールに飛行機のチケットを同封して、久実へと送る。久実の誕生日にイギリスにつく便のチケットを。

 ホームスタジアム側のホテルの予約と、クラブ仲間への協力要請も完了。

 休日に宝石店で、ピンクダイヤのリングを買った。

 バースディプレゼント、そして、プロポーズするために。



 まさか、自分がこんなに早く結婚したいと思うなんて考えもしなかった。

 恋人は恋人で、結婚は別物だと思ってたし、雑誌のインタビューなんかにも、『30歳くらいまでは、考えていない』なんて答えてたし。

 でも、久実とであって、考えが変わった。

 とにかく、久実を側においておきたい。何より、自分のものにしたい。

 恋人と言うつながりは、間違いのないものだけど、それよりも夫婦と言う、更に強い結びつきが欲しい。

 それに、結婚してしまえば、久実を堂々と側における。日本から、堂々と久実を呼び寄せることが出来る。

 何より、あの一緒に生活したたった3日間を、永遠のものに出来る。そう思ったから。

 ・・・久実は、うなずいてくれるだろうか。

 久実が、俺を選んでくれるということは、日本を離れるということを意味する。

 俺も確かに故郷を離れ、イギリスに来ているが、それは大切な夢、大きな目標の為であって、そんな大きな夢と同等の価値が、俺にあるのか。

 しかも、イギリスからの距離は、ポルトガルより日本の方がはるかに、遠い。

 ・・・でも、久実じゃないと俺は嫌なんだ。

 きっと組なら、日本を、両親と離れることを寂しいと思っても、それを表を出すことはない。

 知らない土地での生活を辛いと思っても、泣き言言わずに我慢するだろう。

 でも、そんな辛い思いを久実にさせて、本当にいいのか?

 その辛い思い以上の幸せを、俺は久実に与えることができるのか?

 かといって、久実を手離す気なんてない。久実だから・・・こんなことを考えてしまう自分がいるのかもしれない。

 結局、俺にとって、久実は必要不可欠な存在なんだ。


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あきゅろす。
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