■それぞれの、形
6
パーティがお開きになって、私と山下さんはホテルのバーに移動した。
そこそこ広い店内だけど、私たちと同じように移動してきた人たちもたくさん居て、ほぼ満席。先に来てるはずの久実たちを探すと・・・、いたいた。奥の広いテーブル席に姿が見える。久実も気づいたようで、手を振っている。
空いている、久実の真正面の席について顔を上げると、右隣は香織ちゃん、左隣にも、見覚えのある人物・・・宮原のお嬢さん?
びっくりして周りをよく見ると、リカルドの近くにいる男性陣の中に、斉藤さんの姿。
しかも、普通に溶け込んでいるし。
隣の山下さんも驚いて、
「どうしてここにお2人がいるんですか?」
と、斉藤さんに声を掛ける。
私達2人が現れたことに気づいた斉藤さんは、一旦会話を中断し、
「山下に、永井さん。お久しぶり。」
と、笑顔で返答する。
なんで、こんな中ですがすがしいんだろう、この人。
結婚式も、その後のパーティも、2人は居なかった。でも、ここにいる。
「さすがに、式とかは遠慮したけど、お祝いにな。」
ちょっと気まずく笑って、斉藤さんは答える。
そりゃあ・・・、式は遠慮したほうがいいでしょう。久実の身内には顔は割れてるんだから。
普通に話しているのを見る限り、当人たちの間のわだかまりはないにしろ、久実の親は黙ってないかもしれない。
ていうか、この2人、いつまで新婚旅行に行くつもりなんだ。
ドイツに行くっていうのは、知っていた。海外支社を回るっていうのも。でもなぜ、現時点で支社のないポルトガル、しかも、リスボンから離れたマデイラに?
「先輩方とは、ベルリンで偶然お会いしたんです。信吾さん、みなさんとすっかり仲良くなって、それでお祝いも兼ねて、こちらに。」
みんなの会話の輪に戻った斉藤さんの代わりに、斉藤さんと5月に結婚した、社長の娘である宮原のお嬢さんが答える。
そう。すっかり仲良くなってる。相当たる顔ぶれの人たちと。
会話の内容は、熱いサッカー談議なんだけど。
「山下さん、向こうに加わらないでいいの?」
私は山下さんに話を振る。
「あんな、日本語の一切話されない会話はムリ。永井さんこそ。」
「私こそ、あんな内容の濃い、サッカーの話は無理だもん。」
ああ、それで、こういう配席なんだ。久実とリカルドが別々に座ってるのって。
「でも、全く会話の聞き取れない人が、1人混ざってるんだけどね。」
久実が笑いながら視線をやった先に、必死になって会話に混ざっている、久実の弟の姿。
「そうだよ、弟さんも、プロ選手だもんな。」
山下さんは納得したように言う。
〈僕も、プロなんだけどなー。〉
声をしたほうを見ると、今日のパーティで話しかけてきたジョアン。この人だけが、サッカー談に加わらず、久実たちの女の子グループに混ざってる。
目が会うと、二カッと笑って、
〈まあ、僕は熱い話より、可愛い女性の方が楽しいんだけどね。〉
と付け加えた。
ジョアンはプレミアリーグでプレーする、ポルトガ
ル代表のメンバーの1人。だから英語も話せるんだ。
久実を交えてジョアンと話すと、この軽そうなポルトガル人が、けっこういい感じの好青年ってことがわかった。女の子のほうがいいって、こちら側に混ざっているけど、私を除く全員が既婚、もしくは彼氏持ちの女の子を口説くことはないし、みんなにまんべんなく、会話を振ってくれる。いい意味でのムードメーカー。女の子が、ほっとかないとは思うんだけど、なぜか現在フリーらしい。
〈あまり、相手してやれなかったからね。一応、代表選手でもあるし。気が付いたら、他の男に盗られてた。その点、久実はすごいなあ。日本とヨーロッパに住んでて、続くんだから。〉
ジョアンも、久実の信者かい。
まあ、一応華やかなプロ選手でも、結構見えないところは大変なんだなあ。忙しいのを理解できる人じゃないと、長くは付き合えないっていうのは、よく分かる。私も、山下さんも同じようなもんだし。
〈雅恵は?〉
〈残念ながら、フリーよ。どうしても仕事中心の生活してるから、なかなかね。出会いもないし。年に何回も海外出張入るもんだから、一人でいることに慣れちゃった。〉
ジョアンの問いかけに、私はそう答える。
〈海外出張って、かっこいいなあ。ロンドンにも来る?〉
〈ロンドンは比較的、よく行くほうかなあ。〉
私が言うと
〈じゃあ、ロンドンに来たら連絡してよ、連絡先教えるから。〉
嬉しそうにジョアンは言うけど、忙しくて、彼女に逃げられたくらいなのに、会う時間なんてあるのか?
〈・・・確かにそうなんだけどさー。でも、それはその時になってみないと分からないだろ?だから、絶対に連絡ちょうだい。〉
完全に押し切られる形で、ジョアンと連絡先を交換する。
・・・まあ、いいか。そんなに連絡とる機会があるわけでもないだろうし。
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