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■それぞれの、形
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「・・・なんか、さすが永井さん!って感じだよね。」

 話を聞いた山下がしみじみと言う。

「雅恵のすごいなーって思うとこは、あんなに忙しいのに、家事とかちゃんとするんだもん。私は仕事と、家のコトとの両立は無理だなぁ。」

 久実が言うけど、1人暮らしだから、自分がするしかないだけだって。

「あたりまえのようにやっちゃうのが、さすがなんだって。私なんて、1人暮らしもしたことないし、家事しだしたのだって、仕事辞めてからだもん。しかも、ここしばらくホテル暮らしで、何もしてないし。」

 まあ、リカルドに付いて1ヵ月くらいドイツにいたし。そういう生活って、普通は出来ないこと。それが、うらやましい。・・・まあ、私と久実とでは、あまりに違いすぎて、私は久実の真似は、絶対出来ないけど。

 でも、久実は仕事を辞めてからのほうが、いい表情をしている。

「やっぱり、私はキャリアウーマンにはなれないなぁ。雅恵みたいにかっこいい女性になりたかったんだけどなー。」

 ちょっと残念そうに久実は言う。それを言うなら、私だって久実みたいに可愛い女になりたいわよ。なれるもんなら。

 そんな会話を聞いた山下さんは、笑いながら、
「自分にないものを欲しがるからね、みんな。つまり、2人とも今が自然体なんだよ。」

と言った。




 久実がリカルドに呼ばれ、戻っていった時に、

「私のことばっかり、いろいろ言うけど、山下さんはどうなのよ。身を固めてもおかしくない歳でしょ?」
と逆に聞いてみた。

 この人も、浮いた噂は聞かない。確かに、仕事も忙しいし、恋愛してるどころじゃないと言えば、それまでなんだが、器用な人だから、きっと問題ないはず。
会社でも、斉藤さんほどではないが、女子社員からは注目されているし。・・・ただ、この人に、斉藤さんほどの優しさはないけど。

「俺は理想高いもん。庄田さんには振られたしさ。」

「!・・・ゴホゴホッ。」

 私は驚いて、飲んでいたワインでむせ返った。

「大丈夫?」

「大丈夫って・・・いつの間に告白してたの?!」

「去年の秋。イギリスで庄田さんに会った時。1分もたたない間に振られたけど。」

 山下さんは笑いながら言う。

 初耳なんですけど、その話。

 久実も、そんなこと一言も言ってなかったし。・・・まあ、久実の性格じゃあ、言わないだろうけど。

「庄田さんってさ、ほわーっとしてて、やわらかいイメージなんだけど、実は芯はしっかりしてて、強いとこあるじゃん。しかも、ああ見えて、結構サバサバしてるしさ。がんばりすぎちゃうとこなんかは、可愛いと思うし。」

 山下さんはそう言って笑う。この人・・・久実のこと、よく見てるじゃん。

 久実が斉藤さんと別れた後に、久実を狙い始めた社の男どもとは、違うわ。

「ま、俺も庄田さが課長と付き合ってた頃は、何とも思ってなかったけどね。可愛い彼女でいいなー、くらいしか。しかも俺、2人が別れた頃、NYだったし。帰ってきて、偶然庄田さんと会ってからかなあ。話してて、この娘ドンピシャ!って思ったもん。ま、結局はその時にはリカルドが居たんだけどね。」

 ドンピシャかぁ・・・まあ、そうだろうなあ。

「でも、イギリスで庄田さんに告白した時、まだ庄田さん、リカルドの正体に気づいてなかっただろ?しかも、超遠距離で。あの状況だと、俺のほうが条件いいと思うんだよ。それを断って、リカルドを選んだ庄田さんを、すごいと思うな、俺は。」

 そう言って、山下さんは、うん、うんとうなずいた。

 久実とリカルドのことを認めていて、決して邪魔をしなかったけど、横から盗ってやろうとは思わなかったのかな?知り合って、半年弱で婚約した久実たちだけど、実はその間、1回しか会ってないらしいのに。まあ、電話等でその分連絡取ってたみたいだけど、つけいるチャンスは、きっといくらいでもあったはず。

「そうなんだけどねー。元々人のものに興味ないし、めんどくさいの嫌いだし。しかも庄田さん、超遠恋の割りに、元気だったでしょ。俺が邪魔する理由ないじゃん。そのうえ、彼氏って紹介されたのが、あのリカルドだろ?」

 まあ・・・相手が悪いわ。

 私は久実からリカルドを紹介された時、サッカー通でもなんでもなかったから、正体に気づかなかったけど、山下さんは課長の影響で、海外サッカーに詳しかったから、初対面でリカルドが、有名なサッカー選手のリカルドだって、気づいてた。久実たちと別れた後、1人で大盛り上がりしてたし。

『すごい人と会った』って。

 その、『すごい人』と、久実は結婚したんだ。


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