■夕日の向こうに
9
私たちが出発ロビーで飛行機を待っていると、
〜ピロピロピロ♪〜
またもや私の携帯が鳴る。ちょっとビクッとして発信者を見ると、
『永井雅恵』
となってて、ほっとして電話に出る。
『もしもし?久実?あんたどうしたの?』
少し慌てた雅恵の声。
「え?何が?別にそれ以後、変わったことはないと思うんだけど。旅行にきてるくらいで。」
『今、どこ?』
という雅恵の問いに、
「ポルトガル。今から飛行機で、マデイラ島行くの。」
と私が答えると、電話の向こうから、
『はぁー??』
という、雅恵の声が聞こえてきた。
『ポルトガルって・・・あんたまた、思い切ったことしたねえ。』
雅恵はあきれたような声で言う。
「だって、退職金入ったし、時間気にしなくていいしね。遠いとこ、行こうと思って。」
私は明るい声で答える。
『まあ、でも、元気そうで安心した。いや、電話したのは、斎藤さんから『久実と電話してたら、急に男の声で何語かわからないけど怒鳴られた』って聞いて。』
雅恵も少し笑いながら言う。
ああ、朝のリカルドだ。信吾ってば、雅恵に言ったんだ。私は少しへこんだ信吾を想像して、ちょっと笑った。
『でさ、その男って誰よ?何語かわからない言葉話す人と、あんたは一緒にいるの?』
さっきまで笑ってた雅恵が、急に真面目な声で言う。
「大丈夫よ。ポルトガル語。しかも、彼、英語も話せるし、日本語だって、ちょっと話せるんだから。私、こっちきて、迷子になってて、彼に助けてもらったの。」
雅恵は心配してるんだ。
信吾と別れたこと、ごまかして伝えたけど、きっと雅恵はすべて把握してる。会社も辞めた私が、気がついたら海外に居て、しかも、外人の男の人と一緒にいるんだもん。
やけになってるんじゃないか、だまされてるんじゃないか、と心配になるんだろう。
雅恵は海外事業部所属だもん。外国人と仕事することは日常茶飯事で、仕事で海外出張なんてことも、しばしば。私よりは、ずっと海外慣れしてる。
だから。
ちょっとまの抜けた、私が海外に居ること自体、心配になるんだろうなあ。
隣で、私たちの会話を聞いてるリカルドが不思議そうな顔をする。日本語、すべて聞き取れるわけではないけど、知ってる単語が端々に出てくるから、余計気になるんだろう。
「信吾のことも、すべて彼に話して。それで、私を元気付けようとしてくれる、とても優しい人よ。」
私は、雅恵にそう言った。
信吾の名前を出すことには、抵抗があった。リカルドがその単語に反応するから。
そして、案の定、
〔クミ、誰と電話してるの?〕
さっきまで黙っていたリカルドが話し掛けてきた。
〔ごめん、日本の友達。誰といるのか、心配してかけてきてくれたの。〕
私は、簡単に雅恵が電話をかけてきたいきさつをリカルドに話す。すると、
〔クミ、電話貸して。今度は怒鳴らないから。〕
リカルドはそう言って、私と電話を変わる。
〔初めまして、リカルドです。クミには僕がついてますので、安心してください。〕
リカルドは雅恵に向かって言う。
雅恵も英語で何か返したようで、二人は少しの間、話をしてて、
〔はい、ありがとう。〕
リカルドから電話が返ってきた。
『彼、しっかりした人みたいね。じゃあ、おもいきり楽しんできてね。』
雅恵はそう言って電話を切った。
〔いい友達だね。〕
リカルドは言う。
〔そうでしょ。しっかりしてて、仕事もできるし、彼女、凄いの。〕
私たちはそれから、雅恵の話で盛り上がっていた。
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