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■夕日の向こうに
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 私たちが出発ロビーで飛行機を待っていると、

〜ピロピロピロ♪〜

またもや私の携帯が鳴る。ちょっとビクッとして発信者を見ると、

『永井雅恵』

となってて、ほっとして電話に出る。

『もしもし?久実?あんたどうしたの?』

 少し慌てた雅恵の声。

「え?何が?別にそれ以後、変わったことはないと思うんだけど。旅行にきてるくらいで。」

『今、どこ?』

 という雅恵の問いに、
「ポルトガル。今から飛行機で、マデイラ島行くの。」

 と私が答えると、電話の向こうから、

『はぁー??』

という、雅恵の声が聞こえてきた。

『ポルトガルって・・・あんたまた、思い切ったことしたねえ。』

 雅恵はあきれたような声で言う。

「だって、退職金入ったし、時間気にしなくていいしね。遠いとこ、行こうと思って。」

 私は明るい声で答える。

『まあ、でも、元気そうで安心した。いや、電話したのは、斎藤さんから『久実と電話してたら、急に男の声で何語かわからないけど怒鳴られた』って聞いて。』

 雅恵も少し笑いながら言う。

 ああ、朝のリカルドだ。信吾ってば、雅恵に言ったんだ。私は少しへこんだ信吾を想像して、ちょっと笑った。

『でさ、その男って誰よ?何語かわからない言葉話す人と、あんたは一緒にいるの?』

 さっきまで笑ってた雅恵が、急に真面目な声で言う。

「大丈夫よ。ポルトガル語。しかも、彼、英語も話せるし、日本語だって、ちょっと話せるんだから。私、こっちきて、迷子になってて、彼に助けてもらったの。」

 雅恵は心配してるんだ。

 信吾と別れたこと、ごまかして伝えたけど、きっと雅恵はすべて把握してる。会社も辞めた私が、気がついたら海外に居て、しかも、外人の男の人と一緒にいるんだもん。

 やけになってるんじゃないか、だまされてるんじゃないか、と心配になるんだろう。

 雅恵は海外事業部所属だもん。外国人と仕事することは日常茶飯事で、仕事で海外出張なんてことも、しばしば。私よりは、ずっと海外慣れしてる。

 だから。

 ちょっとまの抜けた、私が海外に居ること自体、心配になるんだろうなあ。

 隣で、私たちの会話を聞いてるリカルドが不思議そうな顔をする。日本語、すべて聞き取れるわけではないけど、知ってる単語が端々に出てくるから、余計気になるんだろう。

「信吾のことも、すべて彼に話して。それで、私を元気付けようとしてくれる、とても優しい人よ。」

 私は、雅恵にそう言った。

 信吾の名前を出すことには、抵抗があった。リカルドがその単語に反応するから。

 そして、案の定、

〔クミ、誰と電話してるの?〕

さっきまで黙っていたリカルドが話し掛けてきた。

〔ごめん、日本の友達。誰といるのか、心配してかけてきてくれたの。〕

 私は、簡単に雅恵が電話をかけてきたいきさつをリカルドに話す。すると、

〔クミ、電話貸して。今度は怒鳴らないから。〕

リカルドはそう言って、私と電話を変わる。

〔初めまして、リカルドです。クミには僕がついてますので、安心してください。〕

 リカルドは雅恵に向かって言う。

 雅恵も英語で何か返したようで、二人は少しの間、話をしてて、

〔はい、ありがとう。〕

リカルドから電話が返ってきた。

『彼、しっかりした人みたいね。じゃあ、おもいきり楽しんできてね。』

 雅恵はそう言って電話を切った。

〔いい友達だね。〕

 リカルドは言う。

〔そうでしょ。しっかりしてて、仕事もできるし、彼女、凄いの。〕

 私たちはそれから、雅恵の話で盛り上がっていた。


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あきゅろす。
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