■夕日の向こうに
7
私たちは、食事を終えてからも、ホテル内のバーに場所を移し、さらに盛り上がりながら飲んでいた。
もう、ワイン、どれくらい飲んだっけ・・・?今までこんなに飲んだこと無いぞ!というくらいは飲んだかも。
私、結構飲めるじゃーん、なんて思いながら、そろそろ引き揚げようかということになり、立ち上がったら。・・・
視界が大きく歪む。
あれれ?私、まっすぐ立ってるよね??
〔あぶない!〕
そう言いながら、とっさにリカルドが私の体を支える。
しまった・・・。限界点、とうに超えていた・・・。
〔ごめん、リカルド。私、もうムリ・・・〕
何とかリカルドにそう告げたと同時に、私の意識は遠くなっていった。
気がつけば、私はベッドで寝ていた。さて・・・どうやって移動してきたんだっけ?
しかも。
私が昨日泊まった部屋より、あきらかに広いような・・・。
疑問を抱きながら、体を起こす。
うん、確かに違う。昨日私が眠ったベッドはシングルだった。今、私がいるのはあきらかに、ダブル。
私は、どこに入り込んで寝ちゃったんだ?
部屋の中を見渡すと、少し離れたソファーで・・・リカルドが寝てる!
てことは、ここはリカルドの部屋かい!
昨夜、ワイン飲み過ぎて、前後不覚になったような・・・。自分の部屋に帰れない私を、リカルドがここに連れてきてくれた・・・ってとこかな?
しかも、小さな私が広いダブルベッド使って、背の高いリカルドが、ソファーで窮屈そうに眠ってる・・・。悪いことしたかも。
かといって、今起こすのも気の毒だし、とりあえず、そのまま寝かせておこう。
私はベッドから出て、大きな窓に向かって歩いた。窓の外にはリスボンの街が見える。
異国の街で迎える、3日目の朝。
日常という感覚は全く無い。知らない街に、知らない人。しかも、知らない言葉。
いいんだ、心のお洗濯だから。
心が真っ白になったら、信吾のことがきれいに洗い流せたら、日本に帰ろう。
まあ、昨日あれだけ飲んで、二日酔いにならなくてよかった。
私がそう、一息ついた時。
〜ピロピロピロ♪〜
私のバッグの中で、携帯電話の鳴る音がする。
寝てるリカルドを気遣って、相手も見ずに電話に出た。
『もしもし、俺。久実、元気か?』
・・・。
信吾だ!
私が返事をせずにだまっていると、
『聞こえてるか?なあ、一度会わないか?お前、急に会社辞めたし、俺、心配になって・・・。』
いつもと違う、信吾の歯切れの悪い台詞。
「・・・ねえ、信吾。もう、そのことはいいの。私は、自分の考えで辞めたんだし。信吾に心配してもらわなくても、大丈夫だから。」
『でも・・・。いや、俺が会いたいのかも。なあ、だから・・・』
「だから!信吾とはもう会わない。そのほうがいいの。」
なんでこの人は、私の心をかき乱すんだろう。
私が必死で、無かったことにしようとしてるのに、タイミングよく、蒸し返してくれる。
「信吾は、私より、宮原のお嬢さんを選んだんでしょう?だったらそれでいいでしょ・・・。」
私は、自分でその言葉を言うのは嫌だった。半分、声を詰まらせながら話してたその時、手の中の携帯電話が消え、そして。
"Este sujeito de goddamn!"Nunca chame depois disto!"
私の電話を持ち、その電話に向かって怒鳴る、リカルドの姿。
そして、リカルドはそのまま電話を切ってしまった。
私は呆然としてて。
〔ごめん、勝手なことして・・・。〕
バツが悪そうに謝るリカルドの姿に、今度は嬉しくなった。
ポルトガル語だから、言ってる意味はわからない。でも、信吾に対して怒っていた。昨日、出会ったばかりのリカルドが、私のことで一生懸命なのが、すごく嬉しかった。
〔電話の相手、昨日のバカヤローの奴だろ?〕
〔うん・・・。ありがとう。なんか、嬉しかった。〕
私は少し涙目になりながらリカルドを見て言うと、リカルドはそっと私を抱きしめ、
〔あんな奴のことなんて忘れろよ。辛いこととかあれば、僕が何でも聞くから。〕
真面目な顔でそう言った。
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