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■夕日の向こうに
6

結局、彼がタクシーを捕まえてくれて、一緒にホテルまで行くことに。

〔あのホテルのレストラン、おいしいんだよ。〕

 彼がそう言うので、じゃあ、そこで一緒に食事をしようってことになった。

 タクシーの中で、今度は彼のことについて、いろいろ聞いた。

 マデイラ島(島だったらしい・・・)から、しばらくリスボンにいて、今はイギリスに住んでいること。

 今日リスボンについて、本当は友達と会う予定だったのが、向こうの都合が悪くなり、ぶらぶらしてたこと、とか。

〔そういえば、自己紹介してなかったね。〕

 出会って2時間くらいにはなるけど、お互いの名前も知らないまま、話し込んでいたや。

〔庄田久実です。クミ。〕

〔クミ、よろしく。僕はリカルド。リカルド・フェルナンデス・ドス・サントス・アベイロ〕

 リカルドが自分の名前(しかも、長い)を言ったとき、タクシーの運転手がポルトガル語で何か話し掛けてきた。

“Por favor "finja não isto conhecer assim porque ela não isto nota."

 リカルドもポルトガル語(多分。何を言ってるかわからないから)で返す。

〔どうしたの?〕

 私が英語で聞くと、

〔ああ、ごめん。なんでもないんだ。〕

にっこり笑って、リカルドは言う。



 ホテルに着いて、リカルドもチェックイン。そして、レストランへ。

〔ポルトガルワインって、美味しいんだけど、飲める?〕

 リカルドはメニューを見ながら言う。

〔あ、飲みたいな。あまりお酒強くないけど。〕

〔ちなみに、歳、いくつ?〕

〔ん?25歳。〕

 私が言うと、リカルドはおどろいた顔をする。え?私何か変なこと言った?

〔ごめん。てっきり年下だと思ってた。〕

 笑いながら言うが・・・、え?じゃあ、私より年下?

〔リカルドは何歳なの?〕

〔僕、21。〕

 えー?!てっきり年上かと・・・。あたしより、4つも下じゃん。

 外国の人って、本当に歳がわからないねえ。しかも、リカルドは背も高いし、結構しっかりした体つきしてるから、とても21歳には見えない。
 日本人の21って言えば、もっとひょろひょろしてるイメージあるんだけどなあ。

〔25だったら、お酒大丈夫か。〕

 リカルドは笑いながら言う。そして、ワインで乾杯。

〔あ、ホント。ポルトガルのワイン、おいしー。〕

 私は初めて飲んだ、ポルトガルワインに感激。そして、出てくるポルトガル料理にも。

 実は、昨日からリスボンに居たくせに、まともに食事をするのは初めて。何を、どこで食べるかってこともよくわからなかったのと、あまり食欲がなかったのもある。

 リカルドは運ばれてくる料理を説明してくれて、あたしの分を取り分けてくれる。

 優しいなあ。レディファーストの国って、お姫様気分になれるよね。

〔ポルトガルの人って、みんな20歳くらいでも、こんなに紳士的なの?〕

 私が聞くと、

〔え?日本では違うの?〕

逆にリカルドに聞き返された。

 文化の違いってすごいよね。日本では、最近こそ珍しくなったが『亭主関白』なんて言葉があるくらいだからなあ。

 信吾は・・・なにげに紳士だったかも。優しかったし、何事も私を優先してくれたし。年上だから、そうなのかな?って思ってたけど。

 ふと、信吾のことを思い出して、沈んだ私に気づいたリカルドは、

〔どうしたの?〕

と心配そうにたずねてくる。

〔ごめん、何でもないよ。〕

 信吾のことは、考えちゃダメ。忘れよう。せっかく、リカルド君という、ポルトガルの男前といるのに。


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