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■夕日の向こうに
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 準備が全て終わって、雅恵たちは先に式場へ。それと入れ替わりに、お父さんが入ってきた。

「どう?わが娘ながら、すばらしいでしょ。」

 得意げに言うお母さん。

「・・・そうだな。嫁にやるのは、もったいないくらいだ。」

 お父さんは、ちょっと寂しそうに笑って言う。そして、

「久実は、小さいころからおとなしすぎるくらいで、家から離れることもなく、ずっと近くにいるんじゃないかと思ってたんだが・・・。まさか、こんなことになるとはなあ。」

そう、ぼそっと言う。

 いつも、感情を外に出さないお父さん。そのお父さんの呟きが、とても重いものに感じる。

「・・・ごめんね。」

 私が言うと、お父さんは慌てて、

「あやまることではないぞ。お前の人生だ。自分の決めた通りに、進んでいきなさい。・・・子供だと思っていたけど、いつのまにか、すっかり綺麗になって・・・。こんな久実の姿を見れて、わしは幸せだよ。」

最後には笑顔で言ってくれた。

「お父さん、それにお母さん。今まで本当にありがとう。」

 感謝の気持ちを伝えたくても、言葉が出ない。月並みな「ありがとう」しか、うかばない。

 涙ぐむ私に、お母さんは慌てて、

「せっかくのメイクが崩れるからー!」

そう言ってハンカチを出してくる。

 寡黙だけど、優しいお父さん。明るいお母さん。そんな両親の元に生まれて、私は幸せだったと思う。

 でも、それ以上に、これからの人生幸せになれると信じてる。それが、私に出来る、唯一の親孝行だと。




 お母さんが一足先に式場に入り、教会の扉の前には私とお父さんとスタッフの人だけ。

 まもなくこの扉があけば、中にリカルドが待っている。




 基本、平凡な人生だったと思う。それが、幸せということだとは思うけど、山も谷もない、穏やかな人生を送ってきた。そこに突然現れた、一年前の深い谷。そこから救い出してくれたのは、この扉の向こうにいる、リカルドなんだ。





“それでは、開けますね。”

 スタッフの言葉の後に、扉が開けられる。

 真っ直ぐ続くバージンロードの向こう、祭壇の前に、ちょっと緊張した顔のリカルドがいる。

 私もたいがい、緊張してるけど、普段、何万人もの前でプレーする人なのに、それでも緊張するんだ・・・って思うと、とてもリカルドが愛しく思える。

 ゆっくり、一歩ずつ、お父さんと一緒に、リカルドの元へ向かって歩いていく。そして。

 私の手は、お父さんの元から、リカルドの元に。

 2人で、神に、生涯変わらぬ愛を誓う。

 この人に出会えてよかった。リカルドに会わせてくれた、神様に感謝したい。

 育ててくれた両親にも、忙しい中、駆けつけてくれたみんなにも。

 そして、何より、すばらしい愛を与えてくれたリカルドに・・・。




END

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あきゅろす。
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