■夕日の向こうに
57
準備が全て終わって、雅恵たちは先に式場へ。それと入れ替わりに、お父さんが入ってきた。
「どう?わが娘ながら、すばらしいでしょ。」
得意げに言うお母さん。
「・・・そうだな。嫁にやるのは、もったいないくらいだ。」
お父さんは、ちょっと寂しそうに笑って言う。そして、
「久実は、小さいころからおとなしすぎるくらいで、家から離れることもなく、ずっと近くにいるんじゃないかと思ってたんだが・・・。まさか、こんなことになるとはなあ。」
そう、ぼそっと言う。
いつも、感情を外に出さないお父さん。そのお父さんの呟きが、とても重いものに感じる。
「・・・ごめんね。」
私が言うと、お父さんは慌てて、
「あやまることではないぞ。お前の人生だ。自分の決めた通りに、進んでいきなさい。・・・子供だと思っていたけど、いつのまにか、すっかり綺麗になって・・・。こんな久実の姿を見れて、わしは幸せだよ。」
最後には笑顔で言ってくれた。
「お父さん、それにお母さん。今まで本当にありがとう。」
感謝の気持ちを伝えたくても、言葉が出ない。月並みな「ありがとう」しか、うかばない。
涙ぐむ私に、お母さんは慌てて、
「せっかくのメイクが崩れるからー!」
そう言ってハンカチを出してくる。
寡黙だけど、優しいお父さん。明るいお母さん。そんな両親の元に生まれて、私は幸せだったと思う。
でも、それ以上に、これからの人生幸せになれると信じてる。それが、私に出来る、唯一の親孝行だと。
お母さんが一足先に式場に入り、教会の扉の前には私とお父さんとスタッフの人だけ。
まもなくこの扉があけば、中にリカルドが待っている。
基本、平凡な人生だったと思う。それが、幸せということだとは思うけど、山も谷もない、穏やかな人生を送ってきた。そこに突然現れた、一年前の深い谷。そこから救い出してくれたのは、この扉の向こうにいる、リカルドなんだ。
“それでは、開けますね。”
スタッフの言葉の後に、扉が開けられる。
真っ直ぐ続くバージンロードの向こう、祭壇の前に、ちょっと緊張した顔のリカルドがいる。
私もたいがい、緊張してるけど、普段、何万人もの前でプレーする人なのに、それでも緊張するんだ・・・って思うと、とてもリカルドが愛しく思える。
ゆっくり、一歩ずつ、お父さんと一緒に、リカルドの元へ向かって歩いていく。そして。
私の手は、お父さんの元から、リカルドの元に。
2人で、神に、生涯変わらぬ愛を誓う。
この人に出会えてよかった。リカルドに会わせてくれた、神様に感謝したい。
育ててくれた両親にも、忙しい中、駆けつけてくれたみんなにも。
そして、何より、すばらしい愛を与えてくれたリカルドに・・・。
END
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