■夕日の向こうに
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雅恵たちがリスボンに来て、たいてい3人で観光していたんだけど、リスボン滞在最終日だけは別行動。
急に仕事の話が入ったらしく、夕方、合流しようっていうことに。まあ、夕方には日本の家族と香織ちゃんもこっちにやってくるし、リカルドも今日は、夕方には用事は終わるって言ってたので、それまでホテルでおとなしくしていようかな?
でも、ずっと部屋の中にいるだけではもったいないし、どうせならちょっとホテルの庭でも散策しよう。
部屋もすばらしいんだけど、ホテルの庭園も見る価値のあるものらしいし。
そう思って、手ぶらで部屋の鍵だけフロントに預け、ロビーを歩いていた時、
〈庄田久実さんよね?〉
そう、英語で話しかけられた。見ると、めちゃくちゃ美人な女の人。
〈パトリシア・ブラウンよ。ちょっといいかしら。お話があるの。〉
イギリスで、超人気のモデルさんだ。・・・リカルドと昔、噂のあった・・・。
彼女の言うがまま、私達はホテルの庭に出て、そこで話をすることに。
〈一度、会ってみたいと思ってたのよね。リカルドが結婚までするって言い出した相手だし。〉
彼女はそう言って、私をまじまじと見る。そして、
〈どこにでもいる人の、どこがよかったのかしら。〉
そう一言、言った。
〈よく考えてみて。世界的に有名なリカルドに、ふさわしいと思ってる?〉
はっきり言って、キツイことをズバズバ指摘される。
私だって、考えないわけではなかった。でも、まあいいか、って思ってた。リカルドが私を選んでくれたんだからって。
その後も続く、一方的な攻撃に、くやしいことに一言も言い返せなかった。
有名なサッカー選手に、有名な美人モデル・・・って方が、確かにつりあいは取れてると思うし。
“今ならまだ間に合うから、考え直したほうがいいんじゃない?あなたがリカルドのレベルを下げてるのよ。彼が気の毒だわ。”
なんで、こうまで言われる必要があるのかはわからないけど、言われるうちに、本当に、そうなのかもしれない・・・と思えてくる。
彼女は言いたいことを一通り、一方的に話した後、ホテルに向かって歩き出す。
私は彼女と同じ方向に歩く勇気はなく、反対方向の、ホテルの外へ向かって歩き出した。
・・・本当に、このままリカルドと結婚して、いいのだろうか。今はこれでいいと思っているけど、この先、後悔する日が来たら、どうしよう。
特に、リカルドはまだ若いし、この先、もっとふさわしい人が現れる可能性は十分ある。今急いで結婚する必要なんて、ないのかも。
考えれば、考えるほどに、答えはでない。ただ、どんどん混乱して、明日の結婚式が怖いことのような気さえしてくる。
ふらふら歩いて、どこをどう、どのくらい歩いたのかもわからないけど、気がつけば、見覚えのある場所に来ていた。
「ここは・・・。」
そう、小さく呟く。
初めて、リカルドに会った、あの橋の上。
欄干に体を預け、流れる川を見つめる。
ちょうど1年前も、こうして川を眺めてたっけ。この先どうしよう・・・って思いながら。まさか、一年後に、同じ所で、同じこと思うなんて、想像もしてなかったけど。
・・・私はどうしたらいいんだろう。
どうすることが、私にとって、リカルドにとって、そしてみんなにとっていいことなのか。
私はリカルドのことが好きだし、ずっと傍にいたいと思ってる。でも、本当にそれでいいのかどうかは、わからない。
いくら考えても、答えは出ない。たどり着くのは、
・・・どうしたらいいんだろう・・・。
という思い。
どのくらい、その場で、どのくらい悩んでたのかはわからないけど、気がつけば真っ赤な夕日が川面に反射していた。
そういえば、みんなが日本から来るんだった。もしかしたら、空港についてるかも。
そう思っても、足が動かない。
頭の中がぐちゃぐちゃで、悲しいのか、悔しいのか、不安なのか何かわからないけど、涙がこぼれそうになった。
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